エジプトで400日拘束された記者が語る真実 「ムスリム同胞団」を支援していると疑われた
──(会場からの質問)400日の拘束後、カメラの前に立ったとき、トラウマのためにあなたの報道が変わるだろうか。どんな影響があるか。
影響はない、と言いたいが、カメラの前に立ってみないと分からない。トラウマという言葉をあなたは使った。こういう出来事は予期しない形で心理的な影響を及ぼすものだろうが、今、私はトラウマがあるとは感じていない。
がっくり来ているように見えるとしたら肉体的に疲れているからで、落ち込んでいるわけでも、苦々しく思っているわけでもない。怒ってもいない。厳しい体験だった。しかしそれがトラウマになってはいない。
ジャーナリストとしての自分が変わったというよりも、人間としては変わっただろうと思う。あんな体験をした後で、人間として変わらないわけがない。ジャーナリストとしてはどうなのかはやってみないと分からない。
今思えば、自分は幸運だった。多くの人の想像を超えるような体験をしたがー。現実に直面すれば、人は対処するようになるものだよ。
──次に何をやるのか。
保釈状態の同僚を助けたい。再審は23日に始まる。まだ終わっていない。
その後は、ジャーナリストとしての仕事を続けるだろう。だたこれだけ名前が知られたとなると、アフリカの特派員というわけに行かないだろう。ニュースを伝えることよりも、私に注目が集まる。しかし、何かをリポートしたい。また、できうる限り私の体験を伝えることも使命だろうと思う。
──若いジャーナリストへのアドバイスは?
こんな質問を恐れていた(笑)。私がいうとおりにやれ、私がやることをまねするな、という表現があるね(笑)。
自分で他人にアドバイスが難しいと思うのは、私自身が最初の頃、危険も省みずボスニアに行って、サラエボで殺されそうになったことがあるからだ。そんな風に危険な場所に行くことは勧めない。今はもっともっと危険になっている。ジャーナリズム自体が戦いの最前線になっている。組織からの支援がなければ危険な地域はさらに危険になる。
高まるフリーランサーへの依存
──(会見後の質問)「イスラム国」に殺害された日本人ジャーナリスト、後藤健二さんはフリーランスだった。危険な場所で仕事をするフリーランスについて、どう思うか。
紛争地など危険な場所におけるフリーランスの仕事は非常に重要だ。今はメディア業界の既存のビジネスモデルが崩壊しつつある。合理化、コストカットが進み、正社員は減らされる傾向にある。放送業界はフリーランサーにもっともっと依存するようになった。同時に、フリーランサーを危険な状態に追いやることにもなった。
私たちがフリーランサーを支援しなければ、世界中に報道されない、大きな黒い場所ができてしまう。後藤健二さんのような人は勇気とコミットメントを持っていた。自分が伝えなければという使命感があった。
私たちは後藤さんのような人々を支援し、その仕事を評価し、誇りと思うべきだろう。
ピーター・グレステ氏の拘束から釈放までの経緯 2013年12月29日:グレステ記者、カイロ支局長モハメド・ファーミー氏、プロデューサーのバーハ・モハメド氏が逮捕・拘束される 2014年1月:上記3人を含む20人のジャーナリストが虚偽報道の容疑などで起訴される 2月22日:3人が初の出廷 6月23日:3人に7年の懲役刑。モハメド氏には追加の3年の懲役刑 11月12日:シシ大統領が外国人ジャーナリストを自国に送還する命令を発布 2015年1月1日:高裁が再審を命令。3人は保釈を許されず 2月1日:グレステ記者が大統領令によって釈放される 2月12日:ファーミー氏とモハメド氏が保釈される。3月5日に再審開始予定
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