「18歳選挙権」は、本当に与えてもいいのか 今国会成立なら2016年参院選から実施へ

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前述した賭博法、少年法など、成人にかかわる法律は約300に及ぶと見られ、そのすべてを改正する必要が出てくる。どうやら、すべての見直しには時間がかかるとして、選挙権だけ先行して行うという方針のようではあるが。

だが、もろ手を挙げての賛成ばかりではない。国民の中には、「若者の幼稚性に問題がある」と譲らない者も多い。「モラトリアム人間」など、精神年齢の低下が叫ばれる中、権利の低年齢化が進んでいいのかという懸念がある。

さらに20歳を18歳に2歳若返らせたからといって、投票や選挙の結果が変わらないという理由で、無意味という声も上がる。

「高校生レベル」でしっかりした自己判断ができるか

現在、選挙権年齢のデータがある192カ国で、18歳以下に選挙権が与えられている国は、170カ国にも上る。そのほとんどは、軍隊を保持している。つまり、兵役の義務があるから、国家に対して自分の意思を示す権利として選挙権が兵役前に与えられているという。

「その点は、日本に当たらない」といいたいのだが、「日本も国防軍の設置を想定したうえで、選挙権を18歳からに先行して行うつもりではないか」と、軍事面と結び付けて勘繰る人もいる。だが、真偽のほどはわからない。

成人が2歳若返ることで、改正後の選挙では、有権者が240万人増えるという。だが、これまで若い世代の投票率は低く、2歳若返ったからといって、選挙の結果が大きく変わるとも思えない。

しかも、未成年者の選挙運動は禁じられているのに、成人になったら成人になったで、今度は「投票に行かない」と評される。昨日までは一切やってはいけなかったが、今日からすぐにやれとは、矛盾しているように感じる。

そこに、なだらかな学習期間というものは設けられないだろうか。安倍首相も「選挙権18歳」について、「主権者教育をどう進めるかという教育が大切」と答えたが、言わずもがなだ。

満18歳というのは、高校在学中である人も多い。果たして、高校生に選挙権を与えて、自己判断できるだけの情報収集と投票行動ができるかどうか、不安だ。

若い世代の投票率が低いから、政治家は投票率の高い老年に目がいくとは、政界の常識だ。自ずと国家予算は、高齢者福祉に厚く、子育て支援は薄くなる。だが、国の借金などの財政問題は、むしろ若い人の将来にツケとなって残されていくことを考えれば、選挙権を与えることが決して悪いとは思わない。

今回の改正は1945年(昭和20年)以来、70年ぶりのことになりそうだ。女性に国政選挙の参政権(普通選挙)が与えられた衆議院議員選挙法の改正以来のことだ。婦人参政権運動に寄与した市川房枝さんが、「権利の上に眠るな」と叫んだが、選挙権が与えられても、行使しないことがあってはならない。

「18歳から選挙権」――若者が政治に関わるきっかけになればいいのだが。

有馬 晴海 政治評論家

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ありま はるみ

1958年 長崎県佐世保市生まれ。立教大学経済学部卒業。リクルート社勤務などを経て、国会議員秘書となる。1996年より評論家として独立し、テレビ、新聞、雑誌等での政治評論を中心に講演活動を行う。政界に豊富な人脈を持ち、長年にわたる永田町取材の経験に基づく、優れた分析力と歯切れのよさには定評がある。ポスト小泉レースで用いられた造語「麻垣康三」の発案者。政策立案能力のある国会議員と意見交換しながら政治問題に取り組む一方で、政治の勉強会「隗始(かいし)塾」を主宰し、国民にわかりやすい政治を実践している。主な著書に「有馬理論」(双葉社)、「日本一早い平成史(1989~2009)」(共著・ゴマブックス)「永田町のNewパワーランキング100」(薫風社)、「政治家の禊(みそぎ)」(近代文芸社)など。

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