日本は中国の「地縁経済」戦略にどう対抗できるか 野放図な影響力を制御する地経学的アプローチ

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だが定義が確定された訳ではなく、国家間の政治経済関係を表す概念だとする認識が広がった一方で、単に特定の地域における経済連携に関する考察を指す場合もある。

興味深いことに中国の地縁経済学では、コモディティー・チェーン研究における「核心―周縁構造」(Core-Periphery Structure)の分析視座を援用して、東アジア地域経済は中国を中核(Core)とする供給ネットワークを形成しており、そのなかで中国の「中心性」は高まり続けているという理解が広く共有されている。

こうした見解は、国際的な価値の連鎖を考察するグローバル・バリューチェーン(Global Value Chain: GVC)研究における、国際生産システムはアジア、北米、欧州の3極ネットワークで構成される複数の「リージョナル・バリューチェーン」から成るとの指摘に鑑みても誤りではない。

だが中国の研究がしばしば戦略論としてこの問題を提起し、中国の「中心性」を地理的に拡大することで中国の国際的な「ディスコース・パワー(話語権)」を高め、グローバル・ガバナンス(全球治理)を主導するパワーを獲得できる、と目標設定することには注意を要する。

例えば2010年代から増加した「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative: BRI)を事例とする議論でも、BRIプロジェクトがもたらす経済連結性の経済効果を試算するとともに、BRIが地域の枠を超えたグローバルな広がりを持つ意義を重視する。RCEPの評価においても枠組みの幅広さを強調する傾向がある。

こうした「地縁経済」論に基づいた国際認識は伝統的な「華夷秩序」とも親和性があり、アメリカと中国の競争が深まるなかで、中国がいわゆる「グローバル・サウス」取り込みを促進するための方策にも波及している。

グローバル発展イニシアティブのインプリケーション

習近平政権の対外経済政策の積極化として着目すべき概念に「グローバル発展イニシアティブ」(Global Development Initiative: GDI)がある。GDIは2021年9月の国連総会で習近平国家主席が自ら紹介した概念で、基本的には国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(いわゆるSDGsを記載した国際目標)の実施を主眼とする。

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