同時に新興国や発展途上国に対して「より公正で合理的なグローバル・ガバナンス・システムと制度環境の構築」での協力を呼びかけた。すなわち習政権の主導する経済支援の先には、既存の国際秩序の改変というゴールがある。
中国による秩序改変を抑制するには
習近平政権は発展途上国や新興国への取り込みを進め、自らの勢力圏を拡大しようとしている。それはアメリカを中心とする先進諸国との競争におけるバッファーゾーンの形成であると同時に、経済力を政治的影響力に転換して国際的なディスコース・パワーを向上するための競争システムの構築でもある。
習政権の青写真には、新興国や発展途上国を経済的に依存させることで中国の「双循環」発展戦略を具現化すること、そして国連などの国際機構において多数決に基づく新しいルール形成を主導することがある。その先に描かれるのは恐らく、構造的な覇権の獲得である。
日本は中国の経済的パワーをアジア地域の活性化に生かしつつ、政治的影響力の無効化を図らなければならない。その際に立脚点となるのが、経済規模の優越だけで趨勢を決することはできない、という地経学の観点である。例えば2018年に発効した環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)において、加入申請している中国はCPTPPのルールに従う方策を示し、現加盟国と交渉しなければならない。
つまり中国による野放図な影響力の浸透を、「ルール」というフィルターを通して制御することはある程度可能である。経済領域における国境をまたいだ影響力を抑制するために多国間協力枠組みによる境界線を重層的に引くという方策は、中国式の秩序にのみ込まれないための1つの処方箋となるだろう。
一方、新興国や発展途上国の要望に基づいて既存の国際秩序を改変すべきである、という中国の主張には一理があり求心力もある。日本は先進諸国を巻き込み、現在の国際情勢に符合し多様な価値観を包摂する国際秩序の構築を目指す必要がある。
(江藤名保子/地経学研究所上席研究員兼中国グループ・グループ長、学習院大学法学部政治学科教授)
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