また、9.11アメリカ同時多発テロを受けて設立した、国防軍配下の原子力防衛安全機関(ASND)は、原発施設周辺の上空を監視する防空態勢を敷いている。テロや安全保障上の危機に際して、警戒レベルごとに迎撃ミサイルの使用など防空強化が段階的に実施できるように定められている。再国有化が決まっているEDFもドローン監視対策を実施し、ドローンの排除だけでなく、ドローンが墜落した場合の事故にも備えている。
さらにフランスには、各省庁を横断した組織である国防・国家安全保障事務総局(SGDSN)もある。
思えばフランスが現在の体制や対策を構築するのに、少なくとも20年の歳月を要している。フランスは、自分の国は自分で守るという意識が非常に強い。同時に原発施設の安全運用は防衛とともに重要さを増している。
原発周辺にもロシア軍の激しい砲撃
ゼレンスキー氏はザポリージャ原発のロシア支配で「事態は大きく変わった」と述べている。ウクライナ政府は「ロシアが発電所を支配している限り、安全は保証できない」との認識を示した。
報道によれば、ザポリージャ原発施設周辺の街もロシア軍の激しい砲撃にさらされている。ウクライナの完全降伏しか視野にないロシアにすれば、エネルギー源である原発施設を支配下に置くことがいかに重要かは容易に推察できる。ロシアはヨーロッパに対しても天然ガスの供給バルブを開け閉めすることで制裁に対抗してきた。
一方、フランスでは、戦争中に敵国に自国の原発施設を占拠されたウクライナの経験は極めて有用な情報と考えられている。同時に原発施設は戦争の行方を左右する存在という認識が世界中に広がっている。
今後、ウクライナに対して原発施設に関する支援を行う場合、フランスが存在感を示す可能性は高い。15基の原子炉を持つ戦争中のウクライナにとって、フランスの協力が得られるのであれば、心強い存在となる。
ひるがえって、世界で3番目に原子炉を保有する日本は、原発施設へのテロ対策や防衛の体制作りはフランスからは見劣りする。
日本政府は今年3月、台湾有事や北朝鮮からの攻撃を念頭に原発の安全を確保するため、自衛隊を活用した迎撃ミサイルの配備や平時からの警護といった対策を検討する方針を明らかにした。日本の原発の安全対策は地震や津波などの自然災害、国内テロに軸足を置いてきたが、他国から攻撃を受けるリスクもある。そのための体制作り、とくに専門知識を持った人材育成には時間がかかることも念頭に置くべきだろう。
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