「日本の技術」伝承、ジャカルタ地下鉄整備の現場 JRやメトロの専門家が「オーバーホール」を指導

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世界的な潮流は、車両メーカーが納入後のメンテナンスもカバーするというやり方だ。車両を安く売った分、このメンテナンス業務で稼いでいるとも言われている。東南アジアの都市鉄道を見ていても、鉄道事業者でメンテナンスを行わず、メーカーに丸投げというところもある。一見合理的ではあるが、これでは技術者は育たない。

訓練スケジュールの説明
訓練スケジュールの説明をする釼持氏(右から3人目)(写真:日本コンサルタンツ)

このMRTJのオーバーホールの現場は、鉄道事業者同士という対等な立場で技術が伝承される、まさに「人づくり」の現場でもある。また、日本から派遣されている専門家が、比較的若い人々が多いのも印象的で、非常に心強く感じた。日本の鉄道マンのサラリーマン化が言われるようになって久しいが、まだまだ捨てたものではないなと思う。日本とインドネシアの鉄道マンが人としてぶつかり合い、議論し、作業し、改善していく姿には、決して一方通行ではない相乗効果があるだろう。日本の鉄道事業者にとって、海外鉄道人材育成の場になることは言うまでもない。

「パッケージ型輸出」の持つ意味

もっとも、過去の日本の鉄道海外輸出ビジネスは「モノ」を売ることに終始していた。1970~1980年代にはODAで日本製車両が多数海外に輸出されたが、早々に故障するものも多く、結果的に2000年代に入ると、安い中国製車両などに取って代わられた。2010年代以降、国の成長戦略としてインフラ輸出が掲げられ、鉄道もその中に含まれた。いわゆる「オールジャパン」体制での輸出が叫ばれるようになったわけで、これに対しては筆者が言いたいことが山ほどある。

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しかし、同時に「パッケージ型輸出」という枠組みが策定されたことは評価できる。これで、インフラからメンテナンスに至るまでのハード、ソフト両面をトータルに輸出することが可能になった。これに呼応するように2011年、JR東日本、東京メトロを筆頭に大手鉄道会社が出資して日本コンサルタンツが設立され、現役の鉄道技術者を海外に派遣できるようになった。これでようやく、国を挙げての鉄道海外輸出のスタートラインに立ったわけである。そして、その完成第一号案件が、ジャカルタMRT南北線事業である。

今後、同様の円借款プロジェクトで、ベトナム、バングラデシュ、フィリピンと都市鉄道の開業が控えている。ジャカルタの鉄道に尽力した専門家が再びこれらの国々に派遣されることも大いにあるだろう。それぞれの国で文化や背景が異なるにしても、ジャカルタで得られた知見、それから何より日本の鉄道150年の歴史で培われた経験が生かされていくことを願ってやまない。

レールは繋がらずとも、日本から世界の鉄道へ、人と人の繋がりはどこまでも伸ばしていくことができるはずだ。

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高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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