いきなり!ステーキはなぜここまで凋落したのか 大勝から大敗へ、創業者の一瀬邦夫氏が社長辞任

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ペッパーフードサービスの2020年の社内報に1500万人超の肉マイレージ会員の内訳が記されているのですが、その時点でゴールド会員は全体の6.6%にあたる約100万人、プラチナ会員が同0.6%の約9万人で、最高峰のダイヤモンドは2000人程度という比率になっています。

ここから逆算すると要するにいきなりステーキの売り上げ構造は、顧客全体の7.2%の人数に相当するゴールド、プラチナ、ダイヤモンド会員が推定売り上げの5割以上を占めているというリピーター主体の売り上げ構造であることが推計されます。

中でも売り上げのボリュームゾーンが全体の3分の1の売り上げを占めるゴールド会員なのですが、大きな問題としてゴールド会員になるとドリンク1杯が無料になるという特典がもたらした制度の欠陥がありました。

飲食店の収益構造を考えてみると、多くのお店では原価率の高い食事を補うために原価率の低いドリンク類で元を取るものです。ところがいきなりステーキの肉マイレージでは売り上げの半数を稼ぐリピーター会員が特典で無料ドリンクを頼んでしまうのです。設計当初から上級会員であるプラチナとダイヤモンドだけをドリンク無料にしておけばよかったのですが、ゴールド特典にドリンク無料を設定したことで店舗としての収益構造が悪くなってしまったという理屈です。

2020年の肉マイレージ制度改悪の狙いは、この設計ミスのリカバーにあったと推測されますが、結果としては売り上げをささえてきたリピーターからの反発を招いたことになります。

いきなりステーキの転落要因としてはもうひとつ、従業員の疲弊も取り沙汰されています。転落期にSNS等でさまざまな内部事情が外に漏れていくのですが、これもビジネスが順調なうちは成長の痛みとして吸収されることが、不調へ転じるとより大きな経営問題となる典型例でした。

企業の歯車が狂った典型だった

要するに企業の歯車が狂うというのはこういうことなのです。店舗あたりの売り上げが減少に転じ、なんとか収益をキープするために原価率が下げられ、リピーターへの還元が減らされ、それに敏感に反応するコアなリピーターが離れていく。そうして収益減少のトレンドが負のフィードバックを受ける中で従業員にも徐々に疲労がたまっていく。

今回経営者が代わることでこの負の連鎖を断ち切ることができるのかどうか。まだいきなりステーキというビジネスモデルにも復活のチャンスがあるはずです。というのはいきなりステーキが絶頂期に証明したことは「高級ステーキを日常的におひとりさまで食べる」というコンセプトに刺さる顧客層が国内に100万人も存在するということなのですから。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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