新幹線、次世代の営業列車を生む「試験車」の系譜 かつての「1000形」から、最新型のALFA-Xまで

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ただしWIN350の時速350km運転時の騒音レベルが基準をクリアできなかったこともあり、500系営業車の設計最高速度は時速320km、営業最高速度は時速300kmに軌道修正している。

WIN350の車体断面形状は500系営業車とまったく異なるが、車体断面積は10.1平方mで、営業車の10.2平方mとほぼ同等。そのためにWIN350の車体は300系の車体をベースに全高を350mm低くしている。

先頭部の形状は鉄道総合技術研究所の計算を基に1号車を6.8mのウェッジ形、比較用に6号車を10.14mのキャノピー形とした。しかし、どちらも時速350kmでの環境性能が悪化。そこでJR西日本は航空宇宙研究所にCFD(流体力学)の解析を依頼。営業車は設計最高速度を時速320kmと引き下げたにもかかわらず先頭部長は15mと長くなっている。

WIN350は3両1ユニットとしているが、500系の4両1ユニット構成を見越した機器配置としていた。パンタグラフについてはさまざまなタイプを試験。パンタグラフカバーも複数のタイプを比較試験した。その中で本命は翼形パンタグラフと碍子カバーで、これの改良型が500系営業車で採用された。

時速350km運転を行うためには半径4000mのカーブで車体を傾斜させる必要があり、WIN350は新幹線で初めて空気バネストローク式車体傾斜装置を搭載した。曲線区間では外軌側の空気バネを持ち上げ、内軌側の空気バネを緩めて車体を1.7度傾斜させるもので、現在の車体傾斜装置よりも複雑な構造だった。結局営業車両では最高速度を引き下げたため車体傾斜装置は非搭載となった。

また、油圧式と空気アクチュエーター式の2タイプのフルアクティブサスペンション(以下フルアク)と減衰力切替式セミアクティブサスペンション(以下セミアク)も新幹線で初めて搭載して比較テストを行っている。こちらは試験結果を反映させて、空気式フルアクを500系先行車に搭載したが、当時の技術ではトンネル内で性能低下してしまったため、500系量産車はセミアクを採用した。

試験が終了したWIN350は1996年5月31日付で廃車。500-901は米原風洞、500-906は博多総合車両所で保存されている。

WIN350の1号車は米原風洞で保存。鉄道総研が計算した6.8m長のウェッジ形の先頭部となっている。車体は300系のアルミシングルスキン構体をベースに屋根高さを350mm下げている(筆者撮影)
WIN350の6号車は先頭部の比較試験のため、先頭部長を10.14mに伸ばし、運転台部分をキャノピー形状としている。こちらは博多総合車両所で保存されていて、一般公開で見ることができる(筆者撮影)

JR東海955形300X

300Xは300系に続く次世代新幹線に向けた技術の検証を行うために製造した。車体は300系よりも350mm低い3300mmで、連結器の高さも200mm低くされた。逆に台車の空気バネ支持高さはレール面上1700mmと高くなっており、車内に空気バネを収める張り出しがある。台車の軸距も通常よりも500mm長い3000mmとした。

3・6号車には油圧シリンダ式の車体傾斜装置を搭載。外軌側を53mm上昇、内軌側を53mm下降させて車体を3度傾斜させる構造としている。その他油圧式アクティブサスペンションの試験も行った。

車体構造は比較試験のためアルミシングルスキン構造・アルミダブルスキン構造・アルミハニカムパネル構造・ジュラルミンリベット構造の4タイプ、先頭部形状はカスプ形(1号車)とラウンドウェッジ形(6号車)を採用した。カスプ形の検討にはCFDが用いられ、最後尾状態の特性も解析している。この最後尾状態の空力特性を重視する考え方はJR東海の基準となっており、700系、N700系、N700Sの設計に生かされている。

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