「中国ミサイル、日本のEEZ落下」が示す日本の盲点 思い描いている価値観とかなりギャップがある
孟少将はミサイルの命中精度の高さを誇っているが、威嚇のためのミサイルが万が一、人口密集地に落下した場合の事態はあまり考慮してはいないのだろう。以前(『ロシアの侵攻で増す懸念「台湾有事」日本への影響』)でも述べたが、台湾には人民解放軍が守るべき「人民」が存在しないからなのかもしれない。
今回の演習の発端となったと中国が主張するペロシ・アメリカ下院議長の最も強く主張する「人権擁護」とまったく真逆の中国の思考、中国大陸の台湾市民への視線と国際社会の台湾市民への視線とのギャップをあらためて台湾市民は実感したに違いない。
蛇足ではあるが、ミサイル発射の数日前に、中国のロケットの残骸がフィリピン沖に落下した。フィリピンに対する中国の公式の謝罪や遺憾表明は確認できていない。中国が国際社会に落下情報を共有せず無制御の状態で落下させたとの疑いのあるこの長征5Bロケットと、演習で発射された東風ミサイルが兄弟シリーズのロケットであることは国際社会の常識である。
日本との主張の相違に対する配慮が薄い中国
価値観・思考体系のギャップの3つ目は、不測の事態を防止し、2国間の緊張状態をエスカレーションさせないために日本は抑制的に対応するが、中国は日本との主張の相違に対する配慮が薄いということだ。
今回、5発の弾道ミサイルが波照間島の近傍、日本の排他的経済水域(EEZ)内に弾着して、近傍で漁業などに従事する日本国民を恐怖に陥れた。いまだ北朝鮮ですら試みたことのない、日本のEEZ内への弾道ミサイル発射について、中国は当該海域を「日本のEEZであるとの主張を受け入れない」(華春瑩・外交部報道局長)と表明して、日本の批判を一顧だにしなかった。
そもそも他国のEEZの内側であっても、相当の配慮がされれば軍事演習を行うことを妨げられるものではないが、この華春瑩・報道局長の発言は、対日外交に対する中国の姿勢や思考を明確に表すものである。尖閣諸島や日中中間線付近で中国が一方的に採掘を進めるガス田に対する、日本の抑制的な対応ぶりとは好対照であることは誰の目にも明らかであろう。
日本の主張を否定したうえで、日本への威嚇、警告であるとしてあえて日本が主張するEEZ内に弾道ミサイルを弾着させる。日本にはできない芸当である。
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