販売員だった同期が全員いなくなったので、私が製菓だけでなく販売員もやることになって、負担が倍増したのが本当につらかったです。朝の販売の支度をしなくてはならないので、オーナーやスーシェフよりずっと前に出勤していましたし、2人が来る前にケーキの組み立てなんかもやらなくてはならない。帰りも一番遅くまで残らされました。厨房、店内、店の前、すべての掃除が私の仕事だったので。
朝4時までに出勤して0時頃に家に着く生活が3年続きました。少しでも長く眠る時間を確保するために、帰り道は自転車を漕ぎながらコンビニのおにぎりを口の中にねじ込むような形で食事をしていました。休みは週に1回あったんですが、何かしら理由をつけて呼び出されて、実質無休の週もありました。
――壮絶すぎてなんと言っていいのか……。
そうですよね。
会社は社会保険未加入で手取りは12万~13万円
――ちなみに、当時のお給料を伺ってもよろしいでしょうか。
月に手取りで15万円くらいでしたね。でも、保険は自分の負担だったので……国民健康保険料を差し引くと、手元に残るのは12万~13万円くらい。
給料が出ない月も2カ月ありました。私が計量を間違えたせいでカスタードクリームがだめになったので、それを弁償しろということでした。私は普段通り計量したと思っているんですが、オーナーの中ではそういうことになっていました。「お前は働きにきてるはずなのにおれの足を引っ張ってる! 勉強代を払え!」と言って。一応、数カ月遅れで支払われはしたんですが。
――その後、スタッフは増やさなかったんでしょうか。
新人さんは頻繁に入ってきました。ただ全員が1~2カ月もたずに辞めていきました。それに、後半はスーシェフもいなくなって、オーナーと私の2人きりの期間がしばらく続きました。
――スーシェフがいなくなった経緯はどのようなものだったんでしょうか。
きっかけは百貨店の催事でした。お店にとって重要な機会で、定期的に出店していたんですが、オーナーが無茶なスケジュールでの出店を決めてきてしまったんです。
案の定、当日までにオーナーが決めた個数の商品を用意できなくて……するとオーナーが激怒して、私とスーシェフがなんとか用意した在庫を投げつけてきたんです。
――「在庫が足りない」と怒っていたんですよね?
はい。なのに、自ら今あるお菓子を無駄にする形で暴力を振るいました。それまでも散々暴力は振るわれてきましたけど、そんなふうにお菓子を扱うことは、私たち菓子職人にとって一線を越えた行為でした。それでスーシェフは心が折れてしまって、店を飛び出していって、そのまま辞めました。
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