はい。そして、出会ったときは本当にいい人でした。明るく元気で社交的な人で、菓子職人としての理念もしっかり持っていました。お店のヴィジョンが素敵だなと思ったし、尊敬するパティシエも同じ人だったので共感もしていました。それで、「この人と一緒に働きたい」と思ったんです。
――変わったきっかけはどのようなものだったんでしょうか。
最大の要因は、次第に店の売り上げが落ちて、余裕を失っていったことだと思います。でも、それ以前にもお金が絡む場面では片鱗を見せることがありました。業者の方と請求についてやりとりをしているときなど、一方的に値下げを要求したりといったことがままありました。そういう素の部分が、徐々に露呈していったのだと思います。
従業員への暴力は、最初の頃は言葉だけにとどまっていたんですが、すぐに手が出るようになりました。胸ぐらを掴むとか殴るとか。生地を伸ばすのに使う麺棒という木製の道具があるんですが、それで腹や腰を叩くというのが一番多いパターンでした。からかって小突くとかではなく、出勤から退勤まで延々と続けるんです。
――どのような理由で暴力を振るってきたのでしょうか。
理由はあまりありませんでした。最初の頃はミスをしたとか――それにしたって言いがかりのようなときも多かったですが――何かしら理由があったように思うんですが、それもすぐになくなり、ただただ機嫌が悪いときに暴力を振るってくるようになりました。
日によるんです。すごく機嫌がいい日もあって、そういう日は一切手を出しません。だいたい7:3くらいで不機嫌な日が多くて、理由も周期もわからない。なので、毎日オーナーが店に来るまで"どっちの日"かわからず、おびえて待っていました。
それに、数分前に自分が従業員を殴ったことを忘れていたり、言っていることとやっていることが一致しなかったりと、異常な言動が多く、何か病気を抱えていたのかもしれません。泥酔状態や二日酔いで出勤してくることもあって、そういう日は事務所でずっと寝ているので、逆に安心でした。
同期は全員すぐに退職、佳奈さんも体に異変
――暴力は佳奈さんだけでなく他の従業員にも?
そうですね。と言ってもほとんどの期間、お店はオーナーとスーシェフ(副料理長)と私の3人だけで回していました。オープン時に3人いた同期がすぐいなくなってしまったので。職場に行くのが怖くて家から出られなくなった人、お医者さんから出勤を止められた人など、3人ともオーナーが原因です。
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