日本企業が成功させた「戦略実例」から教訓を学ぶ 「経営戦略の実戦」シリーズ464事例から考える
アメリカの教科書が学生向けに集中するのは、企業がMBAを採用して経営職に登用する結果、経営幹部は戦略を体で覚えるからで、要は幹部用教科書のニーズがないのである。
戦略を必要とせず、実務能力に重きを置いてきた日本では、学生向けの教科書すら大きな市場を形成していない。
おそらく最も売れたのは、実務家が試行錯誤しながら築き上げてきた現実を正当化する日本的経営論の系譜と、戦略を経営企画部の実務に落とし込んだ手引書の類いであろう。
売れたという意味では、コンサルタントたちのプラグマティックなビジネス書にも言及しておく必要がある。その草分けは『エクセレント・カンパニー』で、1980年刊の『競争の戦略』原著初版の2年後に登場して、瞬く間にベストセラーの世界記録を塗り替えた。
ところが、範例としたエクセレント・カンパニーが10年も経つと経営に行き詰まり始めて、威光が陰ってしまう。そこに登場したのが、エクセレンスの持続条件を掲げた『ビジョナリー・カンパニー』である。こちらも売れに売れたところを見ると、一般社員階層の琴線が企業風土にあることは間違いない。経営戦略はベストセラーを生みにくいため、供給も限られてくる。
知識体系を新構築するための本
需要はあるのに供給がないなら、時代の要請に即した教科書は私が書くしかない。そう覚悟を決めて出すのが、この『経営戦略の実戦』シリーズである。
いまや企業の業績は社員や顧客や取引事業者の精神状態だけでなく、株主や政府の収入、ひいては青少年の教育機会や年金受給者の暮らし向きまで大きく左右する。
自分が経験した事業や地域や時代とは異なる事業や地域や時代に向けて、経営戦略を組み立てなければならない幹部候補生のニーズを放置しては、社会的な損失を避けられない。ここは、知識体系の構築を仕事とする学者の出番と考えた次第である。
一口に教科書と言っても、散在する知識を要領よくまとめるアプローチが経営領域では成り立たない。そのため、実態は限りなく研究書に近くならざるをえない。
経営幹部候補生と向き合って教鞭を執るようになって私も20年以上を数えるが、教育コンテンツの不足にはつねに苦しんできた。それゆえ、ここでは新たに知識を開発するところから手をつけている。そのための研究にも工夫を凝らしており、それを以下で5点にまとめ、シリーズの特徴として掲げておく。
(以下、後編に続く)
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