日本人に伝えたい「稲作が温暖化促進」の衝撃事実 CO2の25倍の温暖化効果があるメタンを排出

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すでにパンやパスタの値上がりに、即席米飯(パック米飯)の市場が拡大し、米粉パンへの関心も高まっている。岸田首相も4月26日の記者会見で「国産の米や米粉、国産小麦への切り替えを支援する」と言及している。自民党内でも国産米や米粉の需要拡大の検討を進めていた。

コメへの切り替えは世界的に見てとれる潮流で、すでに世界のコメ輸出の主要国であるタイでは、コメの輸出量が前年を上回る。

そこでコメの増産が進めばそれだけメタンの放出も増えることになる。

ただ、日本も手をこまねいているだけではない。稲作によるメタン対策として、水田の「中干し」を推奨している。

稲が根を張ったあと、いったん水を抜いて田を乾かすことでメタンの排出量が減ることに期待したものだ。それで従来の排出量の約30%が削減できるとされる。この水田管理手法を海外にも広めていく考えを示す。

人口減によるコメ需要の減少という別の課題

ところが、ここにもまた懸念材料がついてまわる。日本の農業従事者は年々、高齢化が進んでいる。数も減っている。

一方で、岸田政権が掲げる「デジタル田園都市国家構想」では、農地管理をデジタル化したスマート農業への移行が叫ばれている。今さらながらに、コメの生産者に手間のかかる「中干し」を求める旧態然とした単純作業に実効性があるのか、首を傾げたくもなる。

先月27日に農林水産省が発表したところによると、2022年産の主食用米の作付面積が、前年に比べて約4.3万ヘクタール減る見通し。家畜の餌になる飼料用米や、大豆や麦などへの作付けへの転換が進んだことが背景にあるようだが、もっともそれ以前に、人口減からコメの需要そのものが毎年減少し続けている。

食料調達の確保と地球温暖化対策の推進。世界的な食料危機の懸念をコメの増産で乗り切ろうとすれば、それだけ温室効果ガスの排出も増える。そのことは、少なくともこの時代を生きる日本人としては知っておきたい事実である。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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