24歳の「かまぼこ屋社長」次々訪れた不思議な転機 130年超続く店にかかってきた電話がきっかけ

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現在、吉開のかまぼこが提供するのは「古式かまぼこ」1種のみ。閉店前はてんぷらなど数品作っていたが、地球環境の変化で原料となる魚の質が落ちる中、吉開さんが納得できるエソだけを使い、古式かまぼこ1品で勝負することにした。

吉開さんの指導のもと、工場長と林田さん、林田さんの後輩の計4人で週2、3回かまぼこの製造を始めた。完全無添加を引き継ぐためには高度な技術が欠かせないが、吉開さん以外はみんな20代の素人だ。

「吉開さんでさえ今でも毎日『難しかあ』と言いながら作るんですよ。魚は生き物だから、同じ原料でも味や強度、滑らかさなどが微妙に違います。吉開さんがノウハウを書き溜めた手書きのノートはあるものの、毎回データや様子を見ながら塩を入れるタイミングや混ぜ方などを調整していて、私たちはとにかく吉開さんと一緒に作ることで知識や技を受け継いでいくしかありません。一般的な職人は見て覚えろという感じかもしれませんが、吉開さんは嬉しそうに何度でも教えてくれるんですよ」(林田さん)

お互いをリスペクトし合う関係

再開を機にホームページやパッケージを一新し、卸に加えて通信販売にも力を入れている。店を開けるのは毎月15日のみだ。

林田さんは当初、経費を抑えるため店を開くつもりはなかった。しかし、再開を知り吉開さん夫妻に会いたがるお客さんも多かった。また吉開さんもお客さんの喜ぶ顔を見ることに生きがいを感じているとわかり、月1回だけ開けることにした。

その日は特別価格でかまぼこを販売し、高菜やしそなどを入れた試作をふるまい、お客さんの声を直接聞ける機会となっている。今後は新たな販路も開拓していくつもりだ。

2人はおじいちゃんと孫ほど年が離れていながら、考えや思いを率直に話し、かつ相手への配慮や敬意も感じられる。

自然体で話す吉開さんと林田さん。吉開さんは再開を願い、休業中の3年間も工場の機械のメンテナンスを欠かさなかった (写真:筆者撮影)

「林田さんは孫というより、仕事のパートナーや身内みたいな感じかな。とにかく元気が良くて、おかげでかまぼこ作りを再開できて、感謝せんといかんですよね」とちょっと恥ずかしそうに目を細める吉開さん。

その横顔を見守っていた林田さんは、まっすぐな眼差しで力強く思いを語る。「吉開さんには数十年にわたって培ってきた豊富な人脈や知識、知恵があって、私は丸ごと盗むつもりでやっています(笑)。常にお客さんファーストで、誰も挑戦しない完全無添加を実現し、仕事に誇りを持っている吉開さんは、私にとって経営の師匠であり、憧れる人生のモデルでもあります。これからも背中を追っていきます」

佐々木 恵美 フリーライター・エディター

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ささき えみ / Emi Sasaki

福岡市出身。九州大学教育学部を卒業後、ロンドン・東京・福岡にて、女性誌や新聞、Web、国連や行政機関の報告書などの制作に携わる。特にインタビューが好きで、著名人や経営者をはじめ、様々な人たちを取材。

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