24歳の「かまぼこ屋社長」次々訪れた不思議な転機 130年超続く店にかかってきた電話がきっかけ

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「吉開のかまぼこ」4代目社長で24歳の林田さんと、先代で77歳の吉開さん。意欲あふれる若者が期せずして後継者になり、事業承継が大きな課題となっている日本において、新たな可能性を示唆するケースといえる(写真:筆者撮影)
福岡県みやま市で、1890年(明治23年)に創業した「吉開のかまぼこ」。皇室への献上経験があり、農林水産大臣賞や九州福岡おみやげグランプリなど数々の賞に輝いてきた。3代目の吉開喜代次さんは「無添加で作ってほしい」という声に応じて、業界で不可能とされていた完全無添加のかまぼこの製造に成功した。お店は黒字だったものの、高齢で後継者がいなかったため2018年6月に惜しまれながら閉店。それから3年半後に事業を承継したのは、製造業の経験なし・親戚でもない24歳の林田茉優さんだった。

今から130年以上前、魚屋として始まった「吉開のかまぼこ」。余った魚で作ったかまぼこが好評で、かまぼこ屋に転業した。吉開さんは18歳から家業に入り、42歳で3代目の社長に。昭和40年代の高度経済成長期、かまぼこはお祝いごとを中心にどんどん売れた。それまでは卸のみだったが、ほどなくして夢だった店も構えた。

無添加にこだわるようになったのは、自身の疑問とお客さんの声がきっかけだ。「もともと保存料は使ってなかったけど、ある調味料の原料がデンプンから石油になったことに疑問を持ってね」(吉開さん)

ちょうど福岡のお客さんから化学調味料を使わずに作ってほしい、東京のお客さんからはリン酸塩を外してほしいとの要望もあり、試行錯誤が始まった。

「特にリン酸塩は弾力を出すために必要で、外すと技術的に難しく仕上がりが安定しない。東京の研究所の先生に相談したりして、完全無添加にたどりつきました」

長崎で水揚げされる高級魚のエソ100%でうまみがたっぷり。食品添加物や化学調味料・保存料不使用の「完全無添加」を徹底(写真:筆者撮影)

こだわりのかまぼこは「おいしい」「安心」と評判になったが、吉開さんの息子たちは別の道へ。後継者が見つからず、体力的に続けることが難しくなり、2018年に73歳で店を閉めた。

驚きの電話がかかってくる

だが休業から1年後、吉開さんのもとに思わぬ電話がかかってきた。

「休業に至った理由と、製品づくりのこだわりについてぜひ聞かせてください」

電話の相手は当時、福岡市の大学4年生だった林田さん。ゼミで後継者問題に興味を持ち、プロジェクトのリーダーを務めていた。

「本物と呼べる技術を持っている企業が、後継者がいないという理由でなくなっていく現状をどうにかしたいと本気で考えていました。後継者を探している企業の情報はネットではなかなか出てこなくて、知人から吉開さんの話を聞いて電話をかけました」(林田さん)

一方の吉開さんはその当時、お客さんの紹介で後継者マッチングを行う税理士に相談。いつか誰かが継いでくれることを願い、休業しても機械のメンテナンスを続けていた。「学生さんから電話があるなんて、面白かねと思いました」(吉開さん)

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