岸田首相「安倍氏の国葬決断」で見せた驚く大変身 結論を先送りする"検討使"から脱却した?

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もちろん、政府部内は前例主義にこだわる向きが多く、国葬論は少数派だった。加えて、自民党内保守派からも「国葬の是非を論争することが、安倍氏の功績に泥を塗る」との危惧の念も示されていた。

岸田首相の側近の間でも「これまでの岸田流政治手法なら、国葬は現実的ではない」との意見が大勢だった。その中での決断は「ここで決められないトップリーダーとの烙印を押されると、1強の座が揺らぐとの強迫観念」(側近)からとみられている。

政権発足後10カ月間の岸田首相の行動原理は「政権運営に影響を与えかねない難題については、『慎重に検討し、いずれ総合的に判断』という結論先送り」が常態化していた。「首相自身は『選挙に勝ったあとは決断型に変身したい』と考えていた」(側近)とされ、今回は「脱『検討使』への第一歩」(同)と受け取る向きも多い。

国葬決断の背景には「外交の岸田」への野心?

岸田首相の決断に至る一連の経過を検証すると、表面的には参院選勝利を踏まえて「ニュー岸田」に変身しようとの強い意欲が際立つ。ただ、今後の展開も踏まえると、「岸田首相の本当の狙いはもっと壮大」(側近)との声も出る。

予定どおりの国葬が実現すれば、安倍氏と親交のあった世界各国の首脳がこぞって参列するとみられている。盟友関係にあったトランプ氏だけでなく、インドのモディ首相、ドイツのメルケル前首相、トルコのエルドアン大統領、さらにはロシアのプーチン大統領も参列の可能性が指摘される。

そうなれば、「新たな冷戦」の原因となったロシアのウクライナ軍事侵攻の当事者たちが、東京に勢ぞろいすることになる。その中で、岸田首相が「国葬外交」の主役となれば、「一気に世界の岸田」(岸田派幹部)となることは間違いない。

政界では「今回の岸田首相の決断に、そうした野望が秘められている」とみる向きも少なくない。そうなれば「安倍氏と並ぶ『外交の岸田』という称号を手にすることができる」からだ。

ただ、それには「世界中が称賛する歴史的な国葬にすることが大前提」(閣僚経験者)だ。日本での新型コロナの感染拡大が開催直前まで止まらなければ、国内だけでなく国際社会でも開催反対論が拡大しかねない。

そうした事態を想定し、政府部内でも「国葬という体裁は整えても、首脳外交も含めた規模縮小や、一定期間の延期もありうる」(有力閣僚)との声が漏れてくる。その場合は「岸田首相は野望を果たせず、逆に秋以降の政権運営の致命傷にもなりかねない」(自民長老)との厳しい見方も出始めており、今後の展開はなお予断を許さないのが実態だ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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