金融機能と銀行業の経済分析 内田浩史著 ~中小金融の役割を高めるリレーションシップ
業態を超えた金融ビジネスを展開するメガバンクの出現によって、日本でもユニバーサルバンク化が進んでいる。最新の金融技術を駆使するメガバンクは、ホールセールだけでなく、中小企業などリテール分野にも従来以上に経営資源を投下している。大銀行の激しい攻勢を受ける中小金融機関が、果たして生き残ることは可能だろうか。
本書は、経済学的視点から、日本の銀行の機能を理論と実証の両面から丁寧に分析したものである。メインバンク制の変遷、ユニバーサルバンク化の影響、市場型間接金融の意義と問題点など、銀行をめぐる主要な論点を取り上げているが、特に中小金融機関の役割として多くの人が期待するリレーションシップバンキングに関する実証分析が充実している。
銀行は、融資先の情報を入手することで、情報の非対称性を克服し、融資の可否を判断する。その情報のタイプによって、貸出は理論上、トランザクション貸出とリレーションシップ貸出の二つに分かれる。前者は第三者に容易に伝達が可能な客観的情報(ハードな情報)に基づいた融資で、財務諸表貸出やクレジットスコアリングなどがある。しかし、すべての企業に客観的情報の提供が可能なわけではないため、後者では銀行は主観的情報(ソフトな情報)を獲得し、融資を判断する。ソフトな情報は、借り手との頻繁な面談や長期的な取引関係や、預金サービスや決済サービスなどの多面的な取引から獲得される。
それでは現実の貸出パターンは、理論通りとなっているか。実証分析によると、監査を受けた財務諸表などが存在せず、透明性の高いハードな情報を提供できない中小企業にリレーションシップ貸出が多い。ソフトな情報を蓄積した銀行ほど、リレーションシップ貸出を重視している。前述したクレジットスコアリングなどの金融技術を駆使することで、中小企業向けトランザクション貸出も可能だが、やはり限界があると思われる。
ソフトな情報の価値は現場から遠ざかると大幅に低下するため、貸出パターンは銀行の組織形態によっても異なるはずである。経営組織がシンプルでフラットな中小金融機関ほどリレーションシップ貸出が重視されていること、大手金融機関よりも中小金融機関のほうが中小企業と親密なリレーションシップを持っていることが示される。融資担当者の役割が極めて重要なことも示されるが、行員の人件費からも中小金融機関に優位性があるのだろう。
日本でもリレーションシップ貸出が重要性を持ち、それに優位性を持つ中小金融機関の役割が大きいことを示す。
うちだ・ひろふみ
神戸大学大学院経営学研究科准教授。1970年生まれ。大阪大学経済学部卒業、同大大学院経済学研究科博士後期課程中途退学。大阪大学で経済学博士号を取得。和歌山大学経済学部准教授、インディアナ大学訪問研究員などを経る。
日本経済新聞出版社 4410円 341ページ
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