原油価格上昇は長期的な成長阻害要因、FRBは当面、高失業率を重視《アフリカ・中東政情不安の影響/専門家に聞く》

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原油先物価格の曲線を見ると、リビア混乱の2~3日前までは年初来、一貫した上昇曲線が見られた。このことは、今年のリビア混乱前の原油価格上昇が、新興国を中心とした世界的な需要増大の反映であることを物語っている。

しかし現在、原油先物価格の曲線は異なるストーリーを示唆している。今後18カ月までの先物曲線は上昇が続くが、それ以降は価格が下落している。つまり、中東情勢から来る市場の混乱は今後18カ月続くが、こうした価格上昇は長期的に原油の需要全体を落ち込ませ、価格を下落させると市場は見ている。供給不安による原油高騰は世界経済の成長の打撃となる。短期的には原油価格が上昇しても、それは世界全体への「税金」のような負担となり、成長を阻害することになる。

--サウジの役割をどう考えるか。

サウジは供給不足に対して増産で補う意向を示しており、原油価格の上昇は市場が考えるように18カ月も続かないかもしれない。サウジ王国は原油の安定的なサプライヤーであり、現在の先物価格の曲線は実際には実現しない可能性もある。

--原油高はどの段階から米国経済に大きな影響を与えるか。

価格の絶対額よりも上昇率のほうが重要だ。70年代や80年代に景気後退を発生させた原油価格の水準は、インフレ率を加味したとしても、今に当てはめるのは意味がない。なぜなら、現在はより原油に対する経済の敏感度が低下しているためだ。

とはいえ、過去において1年間で2倍の原油価格上昇は景気後退を引き起こしてきた。株式市場も、原油情勢で景気後退懸念があるならば、まったく違った反応を示すだろう。今のところ、成長への影響は穏やかなものが見込まれ、景気後退を心配するまでの状況ではない。

--FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策への影響は。

原油価格による景気減速懸念とインフレ懸念の台頭は、FRBにとってはやや困った問題だ。先物市場では、FRBは最初の引き締め時期を先延ばしすると示唆している。私も、これは正しい読みだと思う。
 
 中央銀行の脚本には、「インフレ期待が沈静化している限り、供給不安による原油価格や他のコモデティ価格の上昇に対して中央銀行は容認できる」と書いている。それに、米国は依然9%の失業率に直面しており、FRBはこちらを重視するだろう。
 
 市場は今のところ、FRBは原油価格上昇によるインフレ懸念よりも、経済成長への負のインパクトを重視した対応を示すだろうと受け止めている。

しかし、もし短期的なインフレが賃金上昇となって根付いてしまったと市場が考えると、状況は変わる。FRBによっての本当のジレンマとなり、失業率が高水準であっても、寄り早期の引き締めを考えざるを得なくなる。

現状、FRBは予定通り追加量的緩和を6月に終えることになるだろうが、原油高騰の景気への影響が続けば、金融引き締めの時期は先送りとなるだろう。

Thomas Gallagher
米国のスコウクロフト元国家安全保障担当大統領補佐官が経営する戦略アドバイザリー会社で政治経済問題を担当。「インスティチューショナル・インベスター」誌において17年連続で「オールスターチーム」に選ばれるなど、在ワシントンDCの政治経済アナリストとして米国内での評価が高い。米国連邦政府で国際通商委員会シニアスタッフ、上院予算委員会エコノミストなどを経験した後、ウォール街の独立系調査会社ISIグループのワシントン事務所長を経て現職。

(聞き手:ピーター・エニス記者 =東洋経済特約・在ニューヨーク、翻訳・編集:中村 稔 =東洋経済オンライン)

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