「余命半年」でも1年以上生きる男性が受けた治療 がん終末期ではいかに痛みをとるかがカギに

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ところがAさんの場合、痛みを和らげる目的で使う医療用麻薬、神経系の痛みを取る薬、さらに精神的な不安感を和らげる薬など、入院中にいろいろ試してもらったようですが、どれも思うようには効いていなかったようです。

Aさんに薬以外で何か楽になったか伺ったところ、「お風呂に入った後が一番楽になる」と言いました。そこで体を外から温める温湿布を試してみたのですが、効果なし。「ならば」と試したのが、体の中から温める作用のある漢方薬でした。これがAさんに合ったようで、随分と痛みが和らいだようです。

それ以来、Aさんはぐっと穏やかになり、私に対しても少しずつ心を開いてくれるようになりました。

「先生や看護師さんたちは、本当によく話を聞いてくれる」。ある日、ポツリとこうつぶやいたAさん。往診に行くと、日々感じていることや体調の変化をつづった日記帳を差し出して、読ませてくれました。

余命半年といわれて退院し、自宅に戻ってから1年。痛みが和らいだことで、体調の良い日には「今日は家中の網戸を洗った」「洗車した」などと報告してくれます。

痛み治療では医師選びがとても重要

がんの痛みは、在宅医療でも病院と同じように抑えることができます。使用する薬も、症状に合わせて対処する方法も、基本的に病院と在宅医療で変わりません。なかには、痛みを100%とることが難しいケースも正直あります。しかし、例えば「眠れないほど痛い」というレベルから、「きちんと眠れて、多少動ける」というレベルまでになれば、90%程度は抑えることができます。

そのためには医師選びも重要です。痛みの治療には経験と知識が必要だからです。

医師を選ぶ際には、「在宅緩和ケア充実診療所」として認定されているかどうか、また緩和ケアの認定医や専門医としての資格があるかどうかが1つの基準になります。これらは一定の知識と経験を身につけた診療所や医師であることの目安になります。

痛みの和らげ方は、症状や段階によって対応が変わってきます。

一般的には、最初は市販されているような解熱鎮痛薬の服用から始め、それでも痛みが取れなければ、別の薬を追加するか、医療用麻薬を追加します。薬と一口に言っても、飲み薬、貼り薬、座薬、皮下注射と、同じ薬でもいろいろな投薬法があります。

患者さんが飲める状態であれば飲み薬からスタートしますし、薬を飲み込むことが難しくなってきたら、貼り薬や座薬、皮下注射に変更します。

病院に通えるうちは外来で通院し、通うのがつらくなってきたら訪問診療や入院に切り替えることになります。

痛みの治療に欠かせないのが、医療用麻薬です。しかし、日本ではいまだに、医療用麻薬に対する偏見が大きいように思います。下の表は、国別の医療用麻薬の消費量を示したものです。これを見ると、日本は先進国の中で医療用麻薬の消費がかなり少ないことがわかります。

「がんの統計2022」国立がん研究センターより
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