「統一教会」が米国に寿司を広めた知られざる経緯 日本人信者たちがいかに寿司企業を拡大したか
例えば、神戸聖公会主教の末子であるヤシロ・タケシは、進行性の病気で死にかけていた、勉強ができない10代の学生だった。奇跡的に一命を取り留めた彼は、世界を見るために旅に出た。彼がニューヨークで統一教会に入信した後、彼の母親は、彼を訪問しないよう親戚に告げている。そして、その日30歳の移民であるヤシロは、自由の女神よりも高いアールデコ調の建物で、新たな使命を授かろうとしていた。
そしてその日、文はそこにいた。文は未来を見て、夢の中に現れ、霊界と話すことができるとうたっていた。そこでは、キリストや仏、モーゼやワシントン、カリフや皇帝、キング牧師、さらには神までもが、彼の偉大さを称えるのである。
ある信者が保存していた文書によればその日、4月16日は典礼を唱え、汗と涙と血を武器にしてサタンを倒すことを誓う統一教会の祝日の翌日だった。彼らは永遠に父に従い、神の理想郷を取り戻すと誓ったのである。時にそれは真の世界と呼ばれた。
「あなたたちこそ水産業のパイオニア」
ヤシロたちは熱心に聞いていた。「あなたたちこそが水産業のパイオニアだ。シーフードビジネスだ。先駆けとなり、繁栄を取り戻すのだ」。文は彼らにこう告げたという。
信者が育てた事業は今や、アメリカで唯一の全国的なシーフード会社と言っていいだろう。専門は寿司で、社名はトゥルー・ワールド・フードという。
ヤシロが長年社長を務めた同社は、現在ではアメリカ17州(およびイギリス、カナダ、日本、韓国、スペイン)に支社を持つまでに成長した。トゥルー・ワールド・フーズは、40種類以上のサーモンやイクラ製品、5種類の鯛などの魚介類だけでなく、うなぎのたれ、包丁、ゆずなどのシトラス類、もちアイスクリームなど、アメリカの寿司職人が必要とするほぼすべてのものを扱っている。
親会社であるトゥルー・ワールド・グループ社長を務めるロバート・ブルーによると、トゥルー・ワールド・フーズは2021年度、アメリカとカナダで8300以上の顧客に販売しており、その大多数は寿司屋だった。