「ちむどんどん」のイタリア料理が物議を醸すワケ 鶏肉を白ワインで煮込んだ「ボロネーゼ」とは?

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暢子がかなり出世し、厨房の花形である”ストーブ前”のポジションを獲得し、肉を焼けるまでになった第51話では「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」が登場する。これはトスカーナが誇る上質の牛肉を使ったフィレンツェ風Tボーンステーキのことなのだが……。

骨がついたまま供されてこそ、のフィレンツェ風Tボーンステーキ「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」(写真:長本和子氏)

「皿の上に厚めに切った肉が盛り付けてある。あれ、完全に間違っています。”ビステッカ”とは2つの骨、という意味があるんです。そこから骨つきロースのことを指しているのです。ゆえに必ず骨がついていなければならず、そこにヒレ肉もついた最上部位のTボーンステーキだから、フィオレンティーナ(フィレンツェ風)の名がつくのです。あんなふうに切ったら、フィレンツェ風ビステッカとは呼びません」(長本さん)

イタリア語でビス=2、ステッカ=棒状のもの、という意味があることから、骨が2つついた「ビステッカ」という言葉になったなんて、料理の言葉はなんて面白いんだろう。料理とはただ美味しい不味いではない、歴史と郷土が複雑に絡み合った文化なのだから、その情報はきちんとリスペクトして扱うべきなのだ。

「西洋料理=フランス料理」が常識だった

ただ私が思うのは、1970年代の日本に、本物のイタリア料理がどれだけちゃんと伝わっていただろうかということだ。西洋料理=フランス料理というのが常識だった当時の日本の料理人たちが、スープにベシャメルを入れてクリーミーなスープに仕上げてしまったなんて逸話は、本当にありそうな気もする。ビステッカの意味だってわかっていなかっただろうから、ドラマの中の料理人たちは、お客さまが食べやすいようにと、骨を外してしまったのかもしれない。

私が脚本家だったら、実はこの時代のイタリア料理の情報は少なくて、いい加減なものも少なくなかった、本当はこうこうで~、なんて説明をテロップか何かで入れるのになあ、そうしたらイタリア料理のウンチクも知ることができて、視聴率ももっと上がるかもしれないのになあ、なんて考えながら毎日観ている。

ただ考えてみると、このドラマの主役は沖縄なのである。沖縄料理なのである。それは番組の構成を見てもわかる。週ごとのタイトルが沖縄料理に絡めてあるのだから。だからイタリア料理は二の次。だから仕方ないと考えるか、二の次だからといって適当な情報を流すから、ますます正しい文化が広がらないじゃないか!と憤るか。あなたならどう観ますか?

宮本 さやか フードライター

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みやもと さやか / Sayaka Miyamoto

1996年より、イタリア・トリノ在住。イタリア人の夫と娘と暮らしつつ、ライター、コーディネーターとして日本にイタリアの食情報を発信する。一方、イタリア料理教室、日本料理教室、そしてイタリアの人々に正しい日本の食文化を知ってもらうためのフードイベントなども行っている。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」

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