会員限定

〈今週のもう1冊〉『はじめての老い』書評/書かれてこなかった「名前のつかない老い」を観察

✎ 1〜 ✎ 154 ✎ 155 ✎ 156 ✎ 157
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
『はじめての老い』伊藤ガビン 著
はじめての老い(伊藤ガビン 著/ele-king books/1980円/200ページ)
[著者プロフィル]伊藤ガビン(いとう・がびん)/編集者、京都精華大学メディア表現学部教授、現代美術家。1963年生まれ。編集的手法を使い、 書籍、雑誌、映像、ウェブサイト、広告キャンペーンのディレクション、展覧会のプロデュース、ゲーム制作などを行う。近年のテーマに自身の「老い」がある。
さまざまな分野の専門家が、幅広い分野から厳選した書籍を紹介する。【土曜日更新】

「老人になるのは初めて」とは、年配の書き手の随筆に、かつて見つけた一文だ。

一度限りのこの人生で、誰にとっても老いは初めての経験である。私たちは皆老いることの「ズブの素人」だといわれれば、頷(うなず)くほかない。

1963年生まれの著者は編集者にして大学教員、現代美術家の顔も持つ。医療制度上は高齢者(前期高齢者=65〜74歳)にいまだ届かない年齢ながら、「待ったなし」で老いている実感があり、「自分の心や体から発見している『老い』を新鮮な驚きとともにレポート」したのが本書だ。

「名前のつかない老い」を観察

書店に行けば、老いを扱った本やコーナーを見つけるのは難しくない。だが、「実感としては、まだまだ書かれていないことがたくさんある」。新しいものを採用しない仕草、毛髪のその時々の景色、ハサハラ(挟まりハラスメント)、動きと動きの間(ま)、舌の回らなさ、記憶のサブスク化……見えない家事ならぬ名前のつかない老いを次々見いだしていく様は科学者を思わせる。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD