
林 芙美子『林芙美子紀行集 下駄で歩いた巴里』立松和平 編/岩波文庫
紀行集『下駄で歩いた巴里』は林芙美子らしさが全開で、読んでいて気持ちがいい。ページをめくるたびに、鮮やかな風景がよみがえり、自然体のままで国内外を駆け巡る著者の無鉄砲な行動力に圧倒されてしまうのだ。
こうした魅力とは裏腹に、芙美子はかなり意地悪な一面も持ち合わせていたようだ。作家仲間とのトラブルも珍しくなかったし、原稿を取りに来る編集者を日当たりの悪い部屋で待たせていたとか、先輩の原稿をあえてなくしたふりをしたとか、とにかくいろいろな噂が飛び交っている。
従軍作家として、戦争にも積極的に関わった。その行動は海外一人旅に通じる好奇心ゆえのものだと思うが、後に芙美子が戦争を賛美した、というイメージにつながったことは事実だ。結果、同時代でも現代でも、その作家としての評価には実に複雑なものがある。
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