20世紀初頭の日本で活躍した作家や画家が最も憧れていた都市は、間違いなく花の都・パリだった。
「ふらんすへ行きたしと思へどもふらんすはあまりに遠し」というのは萩原朔太郎の詩だが、「あまりに遠し」と言いつつも、明治後期から大正初期にかけては、永井荷風や横光利一をはじめ、大勢の文化人が渡仏し、そのほとんどは自らのパリ体験をなんらかの形でつづっている。
しかし、憧憬のまなざしに満ちたそれらの文章は、妙に引っかかる箇所が少なくないし、面白い内容ではあるものの、古さが否めない。一方で、林芙美子による「90年前の女一人旅」をめぐる文章は違う。紀行集『下駄で歩いた巴里』は、今読んでもまったく色あせていないのである。
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