64歳で逝去「人類初サイボーグ」が世界に遺した物 東大教授追悼「ネオ・ヒューマンは生き続ける」

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ピーターさんの生き様を記した著書『ネオ・ヒューマン 究極の自由を得る未来』では、肉体を失った後もAI「ピーター3.0」として生き続ける決意を表明していました。ピーターさんのパートナーであるフランシスさんは、「AIを愛する史上初の人間になる」とまでおっしゃっていたほどです。

現在の技術が、彼のアイデアに追いつけたのかどうかはわかりません。2022年6月末現在、ご本人のTwitterの更新は止まったままです。それでも、AIとしてのピーターさんがプライベートに活動している可能性は否定できませんし、彼自身のケースが時期尚早だったとしても、AIによる人格の継続という構想は、後進の研究者に必ずや引き継がれていくはずです。

ピーターさんの遺志を継ぐという、もう1つの意味でのスピリットの継承は確実に果たされていくことでしょう。数々の開発の主体として立ち上げた財団「スコット-モーガン基金」の活動にとどまらず、彼の精神は難病に苦しむ多くの方々、医療関係者、さらには研究者やエンジニアにも影響を与え続けています。

私自身、そう感じます。ご著書を読んだ以外は、NHKの「クローズアップ現代」に出演したご縁で会話を交わしたくらいの間柄ですが、「ピーターさんならこう考えるはず」「彼ならきっとこうする」と、ビビッドに思い描くことができます。彼の思想に共鳴する誰しもが、そうでしょう。いわば彼の「分人」は、フォロワー1人ひとりの心に今も息づいているのです。

見えない壁を打ち壊す

ピーターさんはその生涯を通じて、世の中の固定観念をいくつも覆してきました。言葉を換えると、確かにあるにもかかわらず、多くの人には不可視だった人間社会の壁と、一生を通じて戦ってきたとも言えます。ALS、そして肉体の死を巡る攻防は、その1つにすぎませんでした。

少年時代の彼が直面したのが、性的マイノリティに対する偏見です。イギリスの上流階級に生まれ、名門のキングス・カレッジ・スクールに通っていた彼は、同性愛者であることが明るみに出て、学校から屈辱的な仕打ちを受けます。

しかし、21歳になる直前にフランシスさんと出会ったピータさんは、同性カップルであることを隠さず交際を続け、2005年に始まった「シビル・パートナーシップ制度」によって、結婚した夫妻と同等の権利が認められたイギリス初の同性カップルになりました。それだけでなく、制度に反対する勢力に抗うために結婚披露宴を開き、新しい時代の到来をメディアを通じて世界に知らしめたのです。

社会に出て経営コンサルタントになったピーターさんが目をつけたのは、企業における「暗黙のルール」でした。企業における語られないルール、そして変革を阻害する、見えざる障壁をそう呼んだ彼は、当時勤務していたコンサルティング会社で、企業をカルチャーごと変革するテクニックを提案します。

社内政治で潰されそうになりながらも、大口顧客を味方につけて形勢を逆転したピーターさんは、同社で最年少のジュニアパートナーに就任。世界を股にかけて活躍し、著名コンサルタントとして独立を果たしました。

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