天安門事件被害者が憤る台湾前総統の親中姿勢 民主主義を求める行動に対し批判、中国擁護も
馬氏は「これらは台湾内でルーツが違う人々への憎しみを煽る行為だ」と述べている。他にも言論の発信者を調査するような行為や、司法に干渉し独立機関とは名ばかりの民進党色が強い組織があるなどを例示しているが、その批判の前提がすべて台湾の大多数の民意を反映しない、馬氏をはじめとする国民党の行き過ぎた親中路線によることには触れていない。
例えば、その報道の偏向ぶりが問題となり閉鎖に追い込まれた「中天新聞台」では、2018年の高雄市長選や2020年1月の総統選で、親中派の国民党候補だった韓国瑜氏の動向を集中して放送した。その関連報道が8割を超えたなどとして、メディアを所管する独立機関「国家通信放送委員会(NCC)」から罰金処分を受けていた。ところがその後も十分に是正されていないなどとして、最終的に放送免許更新が認められなかったのだ。
アメリカの「国民党離れ」が進むか
また、馬氏は白色テロ時代の原因究明を清算としている部分は、自身も白色テロの被害者で、監察院長で国家人権委員会主席委員を兼務する陳菊氏がかつて語ったように、「調査は報復行為ではなく、被害者やその家族の名誉回復や非人道的行為への反省のため」である。むしろ、馬氏が今回の声明で中国に対し諭すように語った「負の歴史に真剣に向き合い、傷を癒す」ために行われているといえる。共産党が事件に向き合おうとしないのと同様に、国民党も過去の白色テロに十分に向き合っているとはいえない。
筆者が最も違和感を覚えたのは、天安門事件の被害者や遺族らを悼む言葉がないこと。さらにアメリカを中心とした国々の「反中ムード」が、中国の国際的な立場を一層複雑化していると、習政権から見た国際情勢を語っている点である。後述するが、この声明によってアメリカの「脱・国民党」が加速したかもしれないと筆者は考える。
鄧小平以降の改革開放がすべて帳消しになるほど、時に毛沢東すら連想させる強権的な習氏と共産党政権に対し、台湾の元総統としての批判などは一切ない。やさしく諭すように感じられるトーンと、一方で現政権への非難を大々的に展開している声明に、もはや台湾人でなくても違和感を抱かなかった人はいないだろう。
翌日の2022年6月5日、蘇貞昌・行政院長(首相)は「(馬氏の声明は)事実とまったく異なり、全体主義を美化するもので、世界から失笑されるだろう」とコメントしている。蘇氏自身、1979年の言論弾圧事件「美麗島事件」で、弁護士として当局が逮捕した反体制活動家らを弁護するチームに参加した経歴を持つ。自由や民主への思いは人一倍強いはずだ。
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