一連の活動を経て検討委員会は「湯けむり香る噴火湾、人と時代の交差点」というコンセプトをまとめ、木幡正志町長が2022年3月、鉄道・運輸機構へ要望書を提出した。
町によると、2022年度は引き続き、長万部高校の生徒が駅の「滞留空間」の検討に携わる計画という。
今年4月に着任した濵田哲也校長は1980年代から90年代にかけて、道南の高校に勤務した経験がある。「青函トンネル開通の年に採用となり、寝台特急『日本海』に乗って着任しました。教員仲間と弘前城の夜桜を見たり、青森市の浅虫温泉へ懇親会に出掛けたり……」と当時を懐かしむ。
「町内の道立の施設は今や長万部高校だけ。今年の生徒数は49人です。この高校をなくさないよう、生徒たちとさまざまな活動を展開したい」
濵田校長の担当教科は地歴公民で地理と歴史に明るく、北海道とつながりの深い東北が一気に近くなる新幹線開業に期待をかける。一方で、JR北海道から経営分離される並行在来線の行方に気をもむ。
姿を消す「山線」
長万部駅は、北海道新幹線にほぼ並行し、倶知安から余市を経て小樽に至る函館本線(山線)と、海岸沿いに札幌へ至る室蘭本線・千歳線(海線)の分岐点だ。そして、山線沿線にある9市町は今年2月から3月にかけて、長万部―小樽間140.2kmのバス転換に同意した。JR北海道から経営分離して、第三セクターに移行しても、巨額の赤字が見込まれる事情が背景にあった。
過去にも、長野新幹線(現・北陸新幹線)の開業に伴い並行する信越本線の横川―軽井沢間(11.2km)が廃止された例があるが、今回のような長い区間の廃止が決まったのは整備新幹線の歴史上、初めてだ。
函館―長万部間の将来像も不透明だ。少なくとも現時点では、貨物列車のルートでもある鉄路をなくす選択肢はない。しかし、沿線の人口やニーズを考えると、旅客は非常に厳しい収支が見込まれている。
JR東日本は札幌延伸に合わせて次世代新幹線の投入を目指し、新幹線史上でも新たなステージが待ち構える。他方で、開業は沿線の社会的、経済的環境に巨大な変化をもたらし、地域が抱えていた課題や矛盾を浮き彫りにする。並行在来線はその最たる問題と言える。札幌延伸までに、2次交通や貨物輸送を含む交通・物流の全体像をいつ、誰が、どう描くのかが問われる。
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