北海道新幹線「延伸」、長万部と八雲の生き残り策 人口減に並行在来線、地域の課題が浮き彫りに

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長万部町は町中心部にある長万部駅に新幹線駅が併設される。最大の懸案は、「今も函館本線で分断されている市街地をどう造り替えるか」だった。地元が高架化を強く働きかけた結果、鉄道・運輸機構は2017年6月、駅を挟む2.8kmの区間を高架化すると発表した。駅前や町役場前には「高架化決定」の看板が立ち、地元の歓迎ぶりがうかがえる。

八雲町中心部に建つJR八雲駅(筆者撮影)

一方の八雲町は、町中心部の八雲駅から西へ約3km離れた牧場エリアに新幹線駅が建つ。町は2019年3月、「牧場の中の駅」というコンセプトを公表し、「新幹線駅前=商業開発・繁栄」といった、いわば20世紀型の発想と一線を画した。

八雲町の岩村克詔町長に、札幌延伸への抱負を尋ねると、明快な答えが返ってきた。

「町の郊外を通る新幹線に過度な投資はしない。人を降ろす仕組みと、働く人を呼び込む仕組みが要る。それは『食』だ。開業前の準備をいかに進めるかで、新幹線が生きる」

町がブランド化に力を入れている産品のトップが「北海道二海(ふたみ)サーモン」だ。青森県の企業と連携し、北海道で初めて、トラウトサーモン(ニジマス)の海面養殖の事業化を目指す。

「二海」は太平洋と日本海を意味する。現在の八雲町は、噴火湾つまり太平洋に面した旧八雲町と、日本海に面した旧熊石町が合併して2005年に誕生した。「日本で唯一、太平洋と日本海に面した町」が新町のアイデンティティとなり、合併で新設された郡の名として「二海郡」が採用された。

ふるさと納税を原資に

八雲町はまた、北海道の近代酪農発祥の地であり、道内有数の酪農地帯だ。北里大学八雲牧場で育った「北里八雲牛」などのブランドが人気を集めている。

これらにウニ、アワビ、ホタテなどの海産物を返礼品としてそろえ、町は「ふるさと納税」に注力してきた。総務省データによれば、2011年度に400万円ほどだった納税額は、2018年度には36億8100万円に達した。2021年度も約25億円と、全国上位にある。

八雲町の岩村克詔町長(筆者撮影)

その恩恵で、町の貯金に当たる基金は40億円台から120億円へと増えた。財政的な余裕を武器に、企業との連携構想が膨らむ。学校の長期休暇時にだぶつく生乳をチーズに加工する工場や、ウイスキー工場の建設を検討中という。

「新幹線駅ができる、というインパクトは大きく、企業との連携も進めやすくなる。開業すれば札幌から1時間かからず、青森や仙台もぐっと近くなる」と岩村町長。産業基盤づくりに、すでに「新幹線効果」が表れている形だ。

「人」を強く意識した施策にも力を入れる。「U・Iターン就職奨励金制度」はその一つだ。町内の新規学卒者や町外からの転入者が、町内の事業所に正規雇用された場合、1年目は現金30万円を、2年目は町内で使える「やくも商品券」を支給する。さらに、ウクライナ避難民受け入れの取り組みも進めている。

岩村町長は「人口が減ったからといって、単純に、地域の維持が困難になる訳ではない。7000人になっても5000人になっても維持できる仕組みづくりそのものが重要。八雲町は、その仕組みづくりに新幹線を最大限に生かす」と強調する。

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