沢木耕太郎が三浦一族の屋形跡で見た"2つの夢" 「飛び立つ季節 旅のつばくろ」からエッセイ紹介

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鎌倉殿でも注目、三浦一族の屋形跡で沢木耕太郎が考えた「夢」とは?(写真:タニヤン/PIXTA)
「旅のバイブル」の名をほしいままにしている不朽の名作『深夜特急』。その著者、沢木耕太郎がこの国を北へ南へ、気の向くままに歩き続けた「国内旅エッセイ集」、『飛び立つ季節 旅のつばくろ』の中から、「夢」についてのエッセイをお届けします。

小沢昭一の、その路線のすべての駅について語るという『東海道ちんたら旅』に触発された私は、私版の「横須賀線ちんたら旅」を書く日のために、横須賀線の中で唯一降りたことのない衣笠駅に行ってみることにした。

それは夏の終わりの、残暑の厳しい日だったが、昼の盛りに衣笠駅に降り立った。

当然のことだが、観光案内所など存在していない。駅前で途方に暮れていると、少し離れたバスの乗り場の前に大きな地図が掲示されているのが見えた。その前に行き、見上げると、駅周辺の「名所」が写真入りで載っていた。

じっくり眺めていると、「衣笠城址」という地名が眼を射てきた。どうやら、ここにはかつて城があったらしい。

もちろん、城址というくらいだから、城郭は存在せず、単なる「跡」にすぎないのだろうが、大いなる目標ができたことを喜んだ。

地図上では、どのくらいの距離があるのかわからない。タクシーで行けば簡単なのだろうが、それではつまらない。凄まじい残暑をもたらしている太陽の日差しは強烈だが、歩いて歩けないことはあるまい。

よし、と私はその板に描かれた地図を頭に入れ、歩き出した。

次ページだが、なかなか広い通りに辿り着かない
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