日本から世界を驚かす会社が出ない根本的な事情 イーロン・マスク級のぶっ飛んだリーダーがいない

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そもそも日本はベンチャー資金が集まりにくい国です。2021年に日本で集まったスタートアップ企業の資金調達額は7800億円ほどだったのに対して、アメリカは約40兆円。資金力で50倍の格差があります。

ものすごく優れた発想を持った起業家が構想した筋のいいビジネスモデルが、わずか数億円の資金の枯渇で成長できずに消えていく。それがベンチャーというものだといえばその通りなのですが、千尋の谷に突き落とされたライオンの仔たちが数匹しか上ってこられない仕組みになっている日本のベンチャー市場は非効率そのものです。

日本の強みである人材を使わないのはもったいない

それに、ベンチャーが資金を武器に戦うというのは、そもそもアメリカ的な資本主義に向いた仕組みです。日本企業の最大の強みは金よりも人材にあります。そして日本の優秀な人材は時価総額トップ500社に集中している。そのリソースを使わない競争でアメリカに勝とうというのはもったいない。

つまり世界経済に対してイネーブラーを武器に戦いを仕かけようと考えるのであれば、日本の場合はベンチャー経営者が持つ発想と、大企業が持つ資金力・社員力をプラスして投入したほうがずっと勝ち目があります。ソニー・コンピュータエンタテインメントは、その一番の成功例です。

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それが大企業にできないから、日本の財界はベンチャーを育てようとします。そして、それはアメリカや中国ほどはうまくいっていません。しかし、実は日本経済にはベンチャーに頼る以外のもう一つの魔改造オプションがあります。ここからは私の個人的な考えです。もし、「時価総額が1兆円を超えている大企業の次期社長は、頭のイカれたぶっとんだ人物を選ばなければならない」と法律で決めたらどうなるのか?

東芝、住友化学、三井物産といった社員力の高い伝統企業のトップに、社内ないしは外部から発想のぶっ飛んだ30代・40代のCEOを登用したら革命が起きるかもしれない。

「そんなおかしな法律が成立するのか?」というツッコミはよくわかりますが、考えてみましょう。上場企業は社外取締役を置かなければいけないとか、女性の幹部起用比率を高めなければいけないとか、すでに法律やルールで幹部人事についての指導が入り、大企業はそれを実践しています。だったら「大企業はイノベーションにのめり込むイカれた人物を社長に指名しなければならない」というルールもあってもいいと思いませんか。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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