2018年1月、厚生労働省はモデル就業規則を改定し、企業に副業・兼業についての規定を新設するよう促した。このタイミングで、林さんは副業を会社に申請。副業解禁だと大々的にうたう会社ではなかったが、就業規則に盛り込んだ以上、林さんの申請を拒むわけにはいかなかった。
会社の名刺にも、「社労士」の肩書を加えてもらったおかげで、名刺を見た本業のお客さんから「うちの顧問の先生が高齢なので、代わりにやってもらえないか」と相談された。それが社労士として初めてのお客さんになった。
あるとき、知人から「IT×社労士、ってほかにいないんじゃないの?」と言われた。林さんにとってこの組み合わせは当たり前すぎて、知人に指摘してもらうまで、それが強みになるとは思いもよらなかった。
確かに、多くの人が知るIT関連企業の名刺に、社労士資格をプラスしただけで副業のお客さんがついた。名刺で強みを「見える化」したのが功を奏し、その後も他社から引き合いがあって顧問契約が増えていった。
だが、本業と副業の両立は大変だった。「本業は裁量労働制でしたので、仕事に影響のない範囲で移動中や昼休みに副業に従事できました。でもこの頃の、数少ない写真を見ると、顔がやつれているんですよね」。
本業のSEと副業の社労士を両輪で走らせつつ、ほかにもさまざまなタスクに対応しなければならない。朝から晩まで忙しく働いて、頭が爆発しそうになったが、それでも会社員という守られた身分は何よりありがたかった。
副業を始めて2年目に収入が本業を上回る
収入の心配をしなくてもいい会社員の間に、林さんは独立に向けた準備も進めた。「ホームページや事業案内のパンフレット、名刺などは仕事を広げるのに欠かせないツールです。独立してしばらくは、そのようなツールを整える時間が取れないと思ったので、会社員時代に力を入れて準備を進めました」。
副業を始めて2年目、副業の収入が本業を上回った。3年目にはさらに増え、本業の数倍となりそうな勢いになった。そのタイミングで会社を辞め、独立した。副業のころから「ITに強い社労士」として認知度を上げるタネをまいていたため、ホームページのお問い合わせ窓口経由や、人づての依頼などで仕事は順調に増えた。
もちろん想定外の事態もあった。数千人単位の企業グループの手続き代行を受託したときは、予定よりコストが膨らみ、入金されるまで資金繰りが大変だった。
何とか乗り切ってきたが、この件に限らず「いつも順風満帆というわけではありません」と振り返る。それでも独立してよかったと思うのは、自分自身で仕事をコントロールし、今後のキャリアも舵取りしていけるからだ。
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