元「負け組」社員が3万人のSE改革を担うまで 巨大組織・富士通を乗りこなす男の変人哲学

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こうして当初社外版しかなかった「あしたのコミュニティーラボ」は、社内からの要望をきっかけに社内版がつくられることになり、さらに社外版と社内版の2つのコミュニティー間で交流もできる大きな枠組みへと発展していったのである。

池から冒険に出た柴崎さんという異色の魚が、大海で自分とは色の違う魚たちに出会った。そしてその魚は次第に、多様な魚同士が出会うきっかけをつくるようになり、遂には魚たちが自由に交流できる独自の池をつくってしまったというわけだ。

なぜ柴崎さんは、自分がやりたいと思ったことを大企業富士通の公式業務にすることができたのか。これは多くの人がもっとも気になるポイントだろう。実は柴崎さんの独自路線の開拓と時を同じく、富士通も変わり始めていたことが大きかった。既存のビジネスをこなすだけでは先細りであり、新しいビジネスを生み出す必要がある局面に入っていたのだ。

クラスで最も「不安度の高い」学生だった

「現在の富士通のブランドプロミス(ブランドが社会と約束すること)は、『shaping tomorrow with you』。しかし、従来のビジネスは言ってみれば『shaping tomorrow for you』でした。『あなたのために』という言葉の通り、◯◯銀行様向け、◯◯自動車様向けというように、受託したものを過不足なくつくればよかったのですが、それが『shaping tomorrow with you』に変わりました。『あなたと共に』、つまり『こういうものがあったら便利だな』と思えるものを企業と共創することが求められるようになっていったのです」

外とつながり、外の力を活用することは、会社にとっても重要度が増していたわけだ。そんな中柴崎さんは、自分の持つ「円」と会社の求める「円」を重ね合わせ、そこにできたベン図の真ん中を射抜くように共通利益を生み出しながら、やりたいことを大規模に実現させていったのである。

会社をも動かしていくなんて、柴崎さんはよっぽど大胆な人なのだろう――。この記事を読んだ多くの方はそう思うかもしれない。ところが、聞いて驚くなかれ。大学で心理学を専攻していた柴崎さんは、授業内の不安度を測定する検査で、最も高いスコアを叩き出したというのだ。

「学科には60人いて、60人中いちばん不安度が高いと判定されたんですよ。お前みたいな『不安のカタマリ』が企業なんかに勤められるわけないだろう、とさんざんバカにされて。でも、そのときは自分でもそうだと思いました。入社直後は電話を取るのが怖くてしょうがなかったですね。先輩と話すのも怖かった(笑)」

そんな柴崎さんは、新しいことを始めるとき、大やけどをしないために少しずつ関係者の反応を確かめながら前進するという。「会う人会う人にリトマス試験紙を出してみることが大切だと思います。紙をかざして、反応したところをぐっとたぐり寄せるんです」

入り口で感触をつかんだ後も、計画に緻密さを欠かないのが柴崎流。「物事をこれでOKと進めるためには、パズルのピースを1つずつ詰めていく必要があると思っています」。不安があるからこそ、小さく試し、一つひとつプランの穴を潰しながらことを進めているようだ。

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