北欧2国のNATO加盟、反対のトルコ無視できぬ訳 フィンランドとスウェーデンでも事情が異なる

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ロシアのプーチン大統領は、もしフィンランドやスウェーデンがNATOに加盟し、NATO軍のミサイルなどの兵器が北欧2カ国に配備されるようなことがあれば「それなりの対応を取る」と表明しているが、フィンランドは軍事的弱小国家ではない。それでもロシア軍のウクライナ侵攻を見て、抑止効果を含め、戦時にはNATOの助けが必要と判断したということだ。

ロシアはフィンランドがNATO加盟に踏み切った後、電気や天然ガスの供給を停止した。しかし、フィンランドは国家非常事態に備え、輸入燃料5カ月分、穀物6カ月分を備蓄している。民間企業約1000社とも連携して官民で備蓄を強化し、製薬会社は3~10カ月分の医薬品備蓄を義務づけられている。軍事的中立の中で非常事態に対して官民挙げてシミュレーションを繰り返してきた。

一方、トルコが懸念するクルド勢力について、フィンランドのクルド人移民は少数派で国内には約1万5000人しかいない。フィンランド政府はEUのテロ指定に準拠してPKKを非合法として禁じている。その意味ではフィンランド加盟にトルコが反対する理由はクルド人擁護より、ロシアを刺激したくないという思いのほうが強いことがうかがえる。

トルコ「スウェーデンはテロ組織の巣」

それに比べ、スウェーデンの事情は異なる。

スウェーデンは、クルド人を含む、紛争から逃れる移民をヨーロッパで最も保護している国の1つだ。トルコのエルドアン大統領は、スウェーデンを「テロ組織の巣」と呼んでいる。

クルド人は独自の国家を持たない世界最大規模の民族でその数は約3000万人と推定され、トルコ、シリア、イラク、イランに散在する。

PKKはトルコ国内のクルド人の自治権を主張し、1980年代半ばからトルコ軍と国内外で戦ってきた。トルコは現在、シリアのイスラム国(IS)の排除に貢献したシリアのクルド人民防衛隊(YPG)を安全保障上の脅威と見なしている。トルコは、YPGを標的にシリアとの国境沿いで軍事作戦を行う構えだ。

スウェーデンはノルウェー同様、長年、海外で人権擁護活動とマイノリティの尊厳を守る活動に専心してきたことから、クルド人難民約10万人を受け入れている。基本的にはEU基準で受け入れを行っており、トルコに次いでPKKをテロ組織に指定した国だ。

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