北欧2国のNATO加盟、反対のトルコ無視できぬ訳 フィンランドとスウェーデンでも事情が異なる

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NATOにとって北欧2カ国の加盟は欧州東側の防衛強化の大きなプラスになる。東西冷戦の終結後、多くの西側諸国は防衛規模の削減に動いてきたが、フィンランドはロシアと1300キロにおよぶ国境を接していることから、過去70年もの間、強力な軍を築き、軍事侵攻に備えて独自の安全保障体制を構築してきた。

1939年11月、領土を譲ろうとしないフィンランドに対して旧ソ連が侵攻に踏み切った過去がある。だが、フィンランドの強い抵抗に遭い、雪の中で補給路を断たれ、最終的には停戦が成立した。当時のフィンランド側犠牲者は2万5000人といわれ、旧ソ連軍はその5倍以上の命が失われた。その時の旧ソ連兵の大半はウクライナ人だった。

国民1人当たりで見ると欧州最大の戦力

フィンランドは現在、西欧では最大規模となるカノン砲1500基を保有し、最新鋭のアメリカ産地対空ミサイル(SAM)も購入している。近年はサイバー戦争に備え、欧州諸国で有数のサイバー防衛軍を持つ。18歳以上の男性には兵役を課している(女性は志願制)。

フランスを初め多くの西欧諸国は兵役を廃止し、国防費を削減し、諜報活動も予算が削減され、国民の平和ボケが進んだ現実を抱えている。ロシアの脅威にさらされるヨーロッパにとってフィンランドのNATO加盟は心強い。フィンランド人の根底には「自分の国は自分で守り抜く」という強い信念があり、それは冷戦終結を受け、政治的中立を捨てて欧州連合(EU)に加盟した1995年以降も防衛体制を変えていないことに表れている。

フィンランドは今年、軍事費を国内総生産(GDP)比1.96%まで引き上げる。2020年は1.34%、2021年は1.85%だった。アメリカのトランプ前大統領がNATOへの分担金を増やすことを要求しても応じようとしなかった西欧大国とは対照的に、フィンランドは確実に軍事費を増やしてきた。

アメリカの最新鋭ステルス戦闘機「F35」64機(約94億ドル相当)の購入契約を正式に交わし、包括的な安保体制の下、戦時には正規兵28万人の動員が可能で、さらに60万人の予備兵を準備している。「国民1人当たりでみると、欧州で最大級の兵力となる」とアメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは指摘している。

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