戦火続くウクライナ「鉄道の復興」はどうするか 線路幅はロシアと同じ、「EU加盟」の足かせに?

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もしもロシアの支配下に置かれることになった場合、当然ながら鉄道もロシアとの関係を深めることにならざるをえない。破壊されたロシア―ウクライナ国境の線路は復旧され、代わりにポーランドやスロバキア、ハンガリーといった国々との直通国際列車は廃止され、寸断された状態となるかもしれない。鉄道インフラへの投資は限られ、システムは旧態依然としたままで維持されていくのではないかと考えられる。

ではロシアを退け、ウクライナに平和が戻った場合はどんなシナリオが考えられるか。まずは既存のシステムを復旧し、その一方で将来について考えていく必要がある。

ポーランド国内を走る軍用列車。鉄道と軍事の関わりは深い(撮影:橋爪智之)

ロシアとの関係を絶ち西側の一員として新たな一歩を踏み出すと考えた際、やはり西側諸国との間を結ぶ鉄道は重要で、そこで線路幅の違いは大きな足かせとなる。復興がある程度進んだ段階で、鉄道路線の改軌や西側諸国に合わせた標準軌の新線を建設するということも視野に入れる必要があるだろう。そこには、前述のとおり鉄道の軍事的側面という部分も含まれる。もしNATOに加盟するとなれば、兵力の速やかな展開のためにも西側から直通できる標準軌化は必要不可欠と言える。

標準軌路線の建設に現実味

もっとも、全土に2万km以上の路線網を有するウクライナの鉄道すべてを改軌するのはあまりに非現実的だ。だが、例えばスペインのように在来線は広軌であるものの、高速新線は標準軌を採用し、他国への乗り入れを実現した事例もある。諸説あるものの、スペインはフランスからの侵攻を恐れて異なる線路幅を採用したという話が定説となっているが、それが足枷となり、他の欧州諸国から経済面などでも後れを取ったことは否めなかった。

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ウクライナと事情が異なったのは、ウクライナがかつてのソビエト連邦を構成する一共和国で、その流れでロシアと同じ軌間を採用することになったのに対し、スペインは自ら違う軌間を選んだという部分だ。

とはいえ、復興時にいきなり高速鉄道の建設は難しい。そこで、まずは在来線の主要都市間だけでも標準軌への改軌、もしくは新線の建設といったことも十分検討に値するのではないだろうか。実際、ウクライナのリヴィウ―ポーランドのプシェミシル間は距離も100km以下で、以前から標準軌化の計画がある。ウクライナがロシアの侵攻を退けた暁には、この計画にも本格的なゴーサインが出る可能性が高いと言えるだろう。

そんな中、5月27日に大きなニュースが飛び込んできた。鉄道業界誌レールウェイ・ガゼット・インターナショナル(Railway Gazette International)が報じたところによると、ウクライナのデニス・シュミハル首相がEUの輸送ネットワークとの連携をより密接なものとするため、ウクライナ国内にEU各国と同じ標準軌の線路を段階的に建設していくと語った。これが実現すれば、ウクライナはいよいよEUへ接近していくことになる。

日本のウクライナ支援については、賛否いろいろな意見が飛び交っているが、少なくとも軍事的な支援をすることはできない。一方で、戦後復興の際の技術的、資金的なサポートは最も得意とする分野ではなかろうか。戦争そのものではなく、戦後を見据えた復興支援こそ、日本が注力すべきポイントかもしれない。

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橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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