資産形成を扱うようになった「家庭科」の新しい姿 調理実習や裁縫というイメージはもはや過去

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一部には家庭科教諭が金融教育を担当することに否定的な見方があるのも事実。「利回り計算で小数点が付くだけでお手上げ」といった戸惑いの声も現場から聞こえてくる。

しかし、高校での家庭科教諭の経験があり、同科目を通じた経済教育強化の必要性を説く実践女子大学生活科学部の髙橋桂子教授は「どの科目の教諭でも(資産形成は)教えられない」と反論。

「生徒には『家庭科の授業は内職の時間』との意識があり、このままだとジリ貧状態は避けられなかっただけに、今回の指導要領改訂はむしろビッグチャンス」ととらえる。「銀行に預金をしたり、住宅ローンを組んだりしたことがある先生は多いはず。家庭科は日常生活に根差した科目であり、自身の経験をぜひ、生徒に伝えてほしい」(髙橋氏)。

親子が資産形成について会話できるようなれば

家庭科の授業時間が足りなければ、生徒の理解を高めるためには家庭のサポートも必要だろう。長年にわたって資産形成の啓発活動を続けるフィンウェル研究所の野尻哲史代表は「おカネの教育は家庭と連動していなければダメ。生徒が高校で懸命に学んでも、自宅に帰ってきて『資産運用なんて、とんでもない』などと親に言われたら、どう消化したらいいかわからなくなってしまう」と指摘する。

「『お父さんはIDECO(個人型確定拠出年金)やっているの』といった会話が交わせるような家庭の環境づくりが出発点になってほしい」(野尻氏)。ただ、今の高校生の親世代のほとんどは金融教育を受けずに育ったとみられる。一定の年齢以上の家庭科教諭もしかり。世代を超えて金融リテラシーを高めることが、高校での資産形成教育普及のカギを握っている。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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