アメリカの教会で台湾人が台湾人を襲撃した理由 襲撃事件で露呈した中国統一派「韓粉」の過激さ

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その後のさまざまな調査で、チョウは68歳。戦後、中国から蔣介石らと共に台湾に渡った外省人の2世であることがわかってきた。戦前からの名門校である台中第一高校(台中一中)を卒業し、教員生活を送ったのちアメリカに渡る。不動産関連の仕事に従事するが、2012年頃に部屋を借りていた人物から暴行を受けて耳に障害が残り、性格も暴力的傾向が強まるなど変わっていったという。

チョウが生まれ育った時代の台湾は、中国国民党(国民党)による独裁戒厳令下にあり、「台湾は中華民国の一部であり、異論は許さない」時代であった。それが民主化で、それまで信じ込まれていた「中国と台湾は一つ、中華民国は正義」といったアイデンティティーが大きく崩れていく大変革が起きる。現代の台湾社会や国際社会に馴染めない人々を生み出してしまったのだ。チョウは、そんな人々の一例と言える。常に現在の台湾と、自分自身の中で作られた台湾の中で葛藤し、不条理と思う日々を送っていたのだろう。彼の生い立ちからはそんな悶々とした気持ちを抱えていたことがうかがえる。

台湾統一を進める共産党関連組織の存在

しかし、自分自身の境遇に不満があるからといって、無差別殺人を計画し実行に移すのは明らかにおかしく、間違っている。そして、調査によってさらにチョウは中国和平統一促進会のメンバーであることが暴露されたのだった。

中国和平統一促進会とは、中国・北京に本部を置く中国と台湾の統一を進めようとする団体で、日本を含め海外にもいくつか拠点を持っていると言われている。北京では中国共産党(共産党)の重鎮である汪洋氏を会長に、さらに台湾工作を担当する人物らが指導し、統一を志向する海外の華僑や団体と交流して思想を宣伝する共産党の関連組織だ。時代によって中国指導部の対外政策や台湾政策の方針から、任務や活動内容も変わるようで、昨今は米中対立と中国の戦狼外交に代表される強権的な外交手法に呼応するような動きがあったのか、2020年、当時のポンペオ国務長官は団体を外交使節団と認定した。そしてチョウはラスベガス中国和平統一促進会のメンバーであることが伝えられたのである。

しかも2019年4月、チョウが同会の設立に際し理事として名を連ねた記事と、台湾・高雄市長をリコールされたが国民党内の統一急進派に根強い人気を誇る韓国瑜氏を称える写真が拡散された。2018年の台湾高雄市長選以降、韓氏の支持者の一部に「韓粉」と呼ばれる過激な信者が注目されているが、犯人のチョウも韓粉だったことがわかったのだ。

5月18日、アメリカの華字紙『世界日報』は、チョウが犯行前に同紙へ「滅独天使日記」と題された日記と記録媒体を送付し、受け取ったことを明らかにした。これらは捜査当局にわたり内容は明らかになっていないが、別のメディアが、チョウは『世界日報』だけでなく、北京の中国和平統一促進会会長の汪洋氏、駐アメリカ中国大使の秦剛氏、『環球時報』元編集長の胡錫進氏、台湾『中国時報』発行人の王豊氏にも、それぞれ送付したと伝えている。

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