NATO・欧米の分断を狙うプーチン大統領の戦略 ウクライナの先に西欧、アメリカを見据える

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大統領府でスピーチライターを務めた経験があり、クレムリンの内情に詳しい政治評論家ガリャモフ氏は、式典演説でプーチン氏が国民総動員を発表しなかった背景には、侵攻への世論の急速な支持低下があると指摘する。一時は世論調査で80%もあった支持率は低下している。ガリャモフ氏は「この状況で総動員を掛けたら、国内で革命が起こりかねない」と指摘する。

その一方で、兵力不足が深刻なロシア軍が窮余の策として、正式な動員の代わりに「隠された動員」を始めたことが明らかになった。非公式に志願兵を集めるもので、ウクライナ政府情報部の発表によると、元兵士のほかに、失業が多いロシア南部州や国際的経済制裁で発生した失業者などを対象にしているようだ。応募者には月20万ルーブル(日本円で約38万円)の給与が約束されているという。

「国民総動員令」の発令も?

しかし、この非公式動員だけでは兵力の十分な補充ができないのは明らかだ。クレムリン内では一部強硬派から、このままでは戦線の拡大は難しく、正式に国民総動員令を出すべきとの意見が出ていると言われる。このため攻勢拡大のため、いずれプーチン氏が正式に総動員令を出すのではとの見方もある。

こうした中、記念式典直前に不気味な、長期的な戦線拡大論がクレムリン周辺から飛び出した。ロシアが最終的に目指しているのは、ウクライナに対する勝利だけでなく、西側に対する軍事的勝利だという、ジャーナリスト、アコポフ氏の論評だ。

クレムリンに近いといわれる同氏の「戦勝の後に新たなロシアと新たな世界が来る」と題した記事は「ウクライナは今見えている敵にすぎない。われわれが今、誰と戦っているのかを理解する必要がある」と指摘。そのうえで「この戦いにおける主要な敵は集団としての西側だ。この戦いはウクライナで大砲を打ち終わった後も終わらない」と述べて、今回の侵攻の最終的な敵が米欧であるとの考えを示した。

論評はこの「西側との戦い」について「プーチン政権が退陣してロシアが降伏するか、西側が深刻な危機に陥るか」のどちらかだと述べ、戦いが「今後5年から10年続く」可能性があると指摘した。そのうえで、ロシアがモルドバ東部の親ロ派支配地域「沿ドニエストル共和国」や、バルト3国にとって他のNATO(北大西洋条約機構)加盟国であるポーランドを結ぶ唯一の陸上路であるスバウキ回廊を制圧する可能性があると指摘した。

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