養老渓谷が旅ヨガ、和アロマで人を集められた訳 地域おこし活動に支援金、地元の若者も参画へ

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さらなる具体的な動きも進行中だ。次なるステップとして、掘さんが取り組んでいるのは、今住んでいる平屋の家の納屋を改造した「里と生きる蒸留工房カフェ作り」だ。

里山の住人たちが何世代にもわたって育んできた里の知恵と溢れる山や森の恵みを後世につなげていけるような場、工房付きのカフェを作りたい、というのだ。飲食の提供だけでなく、おばあちゃんたちに漬物の漬け方、梅干しの作り方、モンペの作り方など里の知恵を伝授してもらう企画を考えているという。

問題は費用の工面。飲食スペースの納屋の建て替えだけでも300万円はかかる。そこで千葉銀行グループのちばぎん商店のクラウドファンディングサイト「C-VALUE」で、支援金の募集を始めた。4月27日のスタートで当初目標の30万円をたった1日でクリア。5月9日時点で約55万円の支援が寄せられた。次の目標は100万円(募集期間は6月下旬まで)。初めて挑戦したクラウドファンディングで、新たな交流の広がりをつかみたいところだ。

若い女性の育成をミッションに

掘さんがこの地に移住して、早くも3年近くになる。この間、さまざまな地域おこし活動を展開してきたが、最近、希望の兆しが見えてきたという。

「サトモノ屋で4月から地元の16歳の高校生の女の子が働き始めてくれています。普通、高校生の子がアルバイトするんだったら街に出てしまいますよね。そもそも若い子は高校も木更津のほうへ行ってしまうので、この一帯は平日には若い女性が存在しないんですよ。そんな中で若い女性がこういうエリアにコミットする機会をつくれたことに、すごく大きな手ごたえを感じています。

この辺りには働く場がなく、まだ古い考えもあるので、若い女性の流出が止まらないんですね。そうした状況で自分がミッションにしていきたいのは若い女性世代の育成です。そこにすごい力を入れていきたいですね」

そこで、この女子高校生にこんな提案をしたという。

「彼女をカフェのバイトにとどめておくつもりはありません。彼女には、自分で企画を立てて集客をしてみなさい、私にプレゼンして、内容が良ければ経費は出してあげると言いました。そういう経営者視点の小さな機会を与えてあげることで、自己実現を達成するためにどうしたらいいか、知恵を絞ると思うんですよ。

そうしたら、何時間もかけていろいろ調べて、企画書作りに没頭しています。ここで勉強して、試してみて、ゆくゆくは起業しなさいって、言っているんです。極端な話、高校生同士で会社を立ち上げて地域活性を進めていく、そんな動きが養老渓谷から出てきたらいいな、と思っています」

アウトドアヨガを通じて里山の自然と文化のすばらしさを人々に実感してもらい、和のアロマという自ら立ち上げたブランドの力を大きくしていく中で、里山の荒廃を防ぎ、産物の活用を図る。そうした一連の活動を通して若い女性の社会進出、里山文化の承継と再生、地域活性化を進めていく。掘さんは若い仲間とともに走り続けている。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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