「パワハラ」が発生する職場の共通点と防止策 指導は感情的にならない、問題行動や内容に焦点

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ここまで、パワハラにならない注意・指導方法について説明してきましたが、ここからは企業に義務付けられたパワハラ防止措置について説明します。

具体的には以下の取り組みが義務付けられます。

① 事前に実施しなければいけない取り組み
 a 具体的なパワハラの内容及びパワハラを行ってはいけない旨の周知
 b パワハラを行った者に対し懲戒処分をする旨の周知
 c パワハラ相談窓口を設置・周知
 d パワハラ相談窓口の担当者は適切に相談対応する旨の周知
 e パワハラ相談をした者のプライバシーを保護する旨の周知
 f パワハラ相談をしたことをもって相談者に対し不利益な取り扱いをしない旨の周知
② 労働者から相談を受けた場合の取り組み
 g 相談者・行為者・第三者から事実関係を迅速かつ正確に確認する
 h gの結果、パワハラがあった場合は被害者の保護を図ること
 i gの結果、パワハラがあった場合は加害者に対し就業規則に基づいた懲戒処分等を行うこと
 j パワハラの再発防止に向けた取り組み(セミナーや研修等)を行うこと

「事前に実施しなければいけない取り組み」についてはa~fの内容をチラシ等に記載し、労働者が目にする掲示板などに貼れば大丈夫です。ただし、bについては就業規則の懲戒規定に「パワハラがあった場合は○○○○の懲戒処分を行う」等の記載を盛り込む必要があります。

各労働局のホームページに社内啓発用のチラシが掲出されているので、それを入手するのもよいでしょう。

「労働者から相談を受けた場合の取り組み」については、相談担当者が相談者に対し「気のせいだろう」と門前払いする例が散見されますが、それでは「相談者・行為者・第三者から事実関係を迅速かつ正確に確認」したことにはならず、労働局から指導を受ける可能性があります。

まずは相談者から話を聞き、その後行為者とされる者や周りの労働者への確認が必要となります。それらの確認を行った結果、会社として「パワハラはなかった」と判断することも可能です。ただ、その後、労働者が訴訟を提起した場合、会社は改めてパワハラがなかったことを証明する必要が生じるため、パワハラがなかった根拠等は証拠も含めて押さえておく必要があるでしょう。

相談を受けた際の具体的な対応

パワハラ相談を受けた場合はその対応方法が重要となります。パワハラ相談時の具体的な対応方法は以下のとおりとなります。

① プライバシーが確保できる部屋を用意する
②メールや電話よりも面談
③相談者の秘密を守れるように連絡方法や部屋の場所に注意する
④実際の相談時には、「プライバシーを守ること」「相談をしたことによる不利益取り扱いを受けないことを」相談者に告げる
⑤相談内容を記録用紙に記録することを相談者に告げる
⑥相談には複数名で対応し、相談者と同性の担当者を配置することが望ましい
⑦相談者の話をゆっくり、最後まで傾聴する(時間をかけて傾聴することにより、相談者が話を聞いてもらえたという納得感を得やすい)
⑧相談対応者は中立的な立場で相談を受けること(「その程度のことはよくあることだ」「あなたにも問題があったのではないか」という言葉を相談者に言うことは厳禁 → そのことに対して相談者から「会社に相談しても対応してもらえない」等の新たなトラブルに発展する可能性があるため)
⑨相談者からの聞き取りを行う(相手は誰か、いつ、どこで、どのようなことをされたのか、業務中か業務外か、過去にも同様のことがあったか?あれば回数や頻度は?、周囲で知っている人はいるか? また同様の対応を受けている人はいるか? 本人の望む解決方法は何か?、相談者に今後の加害者への確認や第三者への確認する旨伝える
⑩行為者からの聞き取りを行う(相談者からの聞き取り内容のうち事実確認を行う)
⑪第三者からも聞き取りを行う
⑫結果が出たら相談者に迅速に伝える
(出所)厚生労働省 あかるい職場応援団 「動画 企業のパワハラ相談対応者の具体的な対応の例」

パワハラ相談では、相談者はパワハラを受け精神的に落ち込んでいる場合も多いため丁寧な対応を心がけてください。

欧米では仕事ができないことよりも「パワハラを行った」場合のほうが重い懲戒処分を受ける(場合によっては1回で解雇されることもある)と聞いたことがあります。部下のことを思って注意・指導しているつもりでも声を荒らげ、人格を否定するような指導は社会からパワハラと受け取られ、処分を受ける可能性があります。私の記事をお読みいただき、今一度ご自身の注意・指導方法を振り返っていただき、上司・部下ともに働きやすい職場になることを願っております。

東谷 義章 社会保険労務士

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ひがしたに よしあき / Yoshiaki Higashitani

東谷社会保険労務士事務所代表。社会保険労務士資格取得後、開業社労士の傍ら10年以上、労働局にて求人求職のマッチング業務や助成金業務、派遣法、育児介護休業法、労働トラブルなどの相談員として幅広く業務に従事する。

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