格差を語る人なら絶対押さえたい「共感」の要点 「資本主義」自体を否定してもしょうがない

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仲正:これはマルクス研究者がよく言うことですが、疎外論にこだわっていた初期のマルクスは、ドイツ観念論の影響から完全に脱皮していなくて、かなり主観的な、つまり労働者の現状に直接的に共感するような議論をしていた。けれど、次第に、人間本性からの「疎外」に見える状態を生み出している構造的要因を客観的に分析するようになり、アダム・スミス的な労働価値説によって成り立つ世界の歪みを把握するに至った。〝単なる共感〟のままに留まらないで、その共感の正体を解剖していって、「交換」「貨幣」「資本」「労働」などをめぐる資本主義的世界の構造的問題に行き当たり、そこからその構造的な歪みを正すための理論体系を構築することを試みた。自分を共感させたものを、必ずしも同じ様に共感してくれない人でも理解できるように、理論的な言語として定式化しようとしたんですね。

そうやってマルクスたちが、共感の根源にあるものを説明するために創り出した概念群が、19世紀後半から20世紀前半にかけての西欧の経済・社会的矛盾をうまく説明し、現状からの脱出口を示しているように見えたわけです。

労働価値説はもう通用しない

しかし、20世紀の終わり頃になったら、肝心の「労働」という概念が多様化し、人類を2つの階級に分けることが難しくなった。単純に、肉体労働だけが価値の源泉である、とする労働価値説はもう通用しない。貧困層が増えているといっても、それに伴って、資本家階級がどんどん没落しているわけではない。

現代ではほとんどの大企業が株式会社になっているので、1つの企業を資産として丸ごと所有している資本家はほとんどいません。大企業が大株主として他の企業を支配しているのであれば、大企業の重役が資本家に相当すると見る人もいるかもしれませんが、株で資産運用しているのは大企業だけとは限りません。年金とか保険などの福祉関連のお金も直接的・間接的に入っています。

企業が所有している株の運用益も、その企業の労働者の賃金や福利厚生に回っているということがあります。各企業が発効している株の配当や運用益のうちのどれくらいが純粋に、大金持ちの個人の懐に入っているのかなどは正確には分かりません。

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