ホンダが仕掛ける電池戦略の「必然」と「死角」 ホンダOBが明かす、電池開発「30年の歴史」

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こうして再び車載用のLIBを研究・開発することになったホンダは2009年、筆者が在籍していたときにEV用ニッケル水素電池の共同開発をしていたGSユアサと合弁会社を設立する。ブルーエナジー(BEC)だ。

元はといえば、ホンダは三洋電機に合弁設立の打診をしていたが、三洋電機から「特定の自動車メーカーとの合弁は作らない」と断られたことから、GSユアサとの合弁に至ったという経緯がある。

サムスンSDIとの協議が続いたが…

ただ、電池の調達先がBEC一社ではリスクがある。そこで2010年、当時サムスンSDIの経営戦略部門で日系企業とのアライアンスを担当していた筆者はホンダの本社を訪ねた。当時の社長であった伊藤孝紳氏は筆者と同期入社であり、彼と会って「LIBの調達先として、少なくとももう1社は必要だから、サムスンSDIが協力したい。今後の協議をお願いしたい」と。

そこからLIBのサンプル供給を開始し、実務レベルでの協議は3年ほど続いた。

結局、ホンダが2015年に第2サプライヤーとして選択したのはパナソニックであった。2016年にホンダは中国国内でHEVの生産を開始しており、そこへ電池を供給するためにパナソニックが中国大連に電池の生産拠点を構えることを前提としての決断だった。

こうしてホンダは、HEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)向けのLIBを確保した。問題は、HEV向けよりも容量が大きいEV用の電池戦略が定まっていなかったことだ。

2012年にホンダが発売したフィットEVは、搭載する電池を東芝から調達していた。だが、同車は市場での発展普及に至らず2016年に生産が停止されるとともに、東芝との関係性も絶たれてしまった。

EV向けの電池戦略が定まらぬ中、押し寄せてきたのが昨今の世界的なEVシフトの波だ。BECの電池ではEVに対応できないことから、外部との提携は必須となる。こうして、ホンダは電池調達に向けた提携戦略にアクセルを踏むことになった。

提携先としてまず候補に挙がるのは、日系の電池メーカーだ。EV用の電池事業を展開しているのは、パナソニック、東芝、リチウムエナジージャパン(GSユアサ、三菱自動車、三菱商事の合弁会社:2007年設立)、エンビジョンAESCジャパンの4社だ。

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