弁護士のケイトに至っても、真相を追いながら、世代間でジェンダー思考のギャップがあることを実感していきます。後に明かされる個人的な事情も関係し、その実感の度合いは相当なものです。その背景を表すような台詞があり、ケイトが20代の部下に「この国(イギリス)では、妻への性暴力を1991年まで法で裁けなかった」と教えたのはある意味意図的です。'90年代以前と以後に生まれた世代では大きな違いがあることを示唆しているもの。作り手の狙いを感じます。
なお、日本ではDV防止法が施行されたのは2001年です。これ自体はイギリスとは10年差がありますが、今の時代に'90年代思考のままであることが問題視されているのは日本でも変わりありません。世界的に共通認識されていることでもあります。Netflixの発表データによれば、「ある告発の解剖」が配信された初週に本国のイギリスを含む78カ国でトップ10入りしたことからも、関心度の高さが伺えます。
ジョンソン首相の不倫会見現場にもいた作者
イギリス政界の性的スキャンダルというストーリー軸に、政治家から芸能人、一般のビジネスパーソンまでジェンダー問題発言が致命傷となる今の世の中をうまく映し出していることが人気の理由にあるでしょう。4月5日にフランス・カンヌのコンテンツ流通マーケットMIPTVでスイスのリサーチ会社WIT社が発表した世界のドラマトレンドとも一致します。「人生崩壊」は今流行りのドラマ界のワードでもあるのです。しくじりから気づきを与えるそんな話題のドラマが注目されています。
「ある告発の解剖」は部分的に生々しさも伴い、実話に基づいたドラマだと言われれば、疑わないほどです。実際はサラ・ヴォーンの小説を元にドラマ化されたもので、厳密には実話に基づいた話ではありませんが、作者の長年の取材経験から生み出されたものです。
サラ・ヴォーンはイギリス三大紙のガーディアンでキャリアをスタートした女性ジャーナリストで、政治特派員時代に同様の事件を取材した経験から着想を得て、「ある告発の解剖」を書き上げています。イギリスの首相ボリス・ジョンソンが不倫をしれっと否定し、後にそのうそを認めた会見現場にもいたとか。
自己防衛のために平気でうそをつき、それに対して疑問を投げかける内容はドラマでも描かれています。イギリス政界内部の事情まで踏み込み、妙に説得力があるシーンが多いのはそういうことだったのです。サラ・ヴォーンはドラマの共同製作総指揮も務め、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」を手掛けたメリッサ・ジェームズ・ギブソンらショーランナーチームをはじめ「Marvel ジェシカ・ジョーンズ」を代表作に持つS・J・クラークソン監督などクリエーティブチームと今回のドラマを作り上げています。
何より作者自身が1972年生まれであることも裏テーマのメッセージ性を高めていると思います。何でも許されたひと昔前のジェンダー思考を引きずりがちの同年代に向けて、痛烈な戒めを込めているからです。
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