データを駆使した「デジタル農業」が成功する理由 モノ・コトをデジタル化できない組織は危ない

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一方、DXが目指す「全体最適」の世界は、組織全体、あるいはもっと広義に、業界や社会全体でシームレスな連携が生まれる状態を指します。メーカーであれば製品の企画、設計、製造、販売、物流、代金を回収するまでのすべてのプロセスを通して、「いかにして価値を最大化するか」ということが問われます。

このようなシームレスな連携の土台となるのが、DXの影の王である「データ」の役割なのです。

DXが目指す「全体最適」の世界観。これはかねてより、経営者は業界全体、ビジネス全体を俯瞰することが大切だといわれてきたことに通じる考え方です。ですが、現在の社会において全体最適が必要な理由はもう1つあります。それは、さまざまなモノゴトがネットワークでつながることが当たり前の世の中になったからに他なりません。

これまで分離していた組織や場所、そして「あらゆるモノゴトの境目」を越えてネットワークとデータでつながることによって成り立つ世界で、一部分にこだわっていては本質的なレベルでは問題は決して解決しないのです。

ゆえに「相互に接続された全体最適の重要性」に気づき、未来のビジネスの方向性を見定めることが重要です。すると、どんなデータが必要で、どんな分析を行なえばいいのか、仮説やアイデアが浮かび上がってくるでしょう。

だからこそ経営者には、ビジネス全体、サプライチェーン全体、業界全体、あるいは、「このデータで課金できないか」「新規のビジネスになるのでは」といったような、「ビジネスのバージョンアップを意図した全体最適のためのデータ収集」という視点が、生き残るためには必要不可欠なのです。

DXの理解に必要な「デジタルツイン」とは

ここで、DXをさらに深く理解するために避けては通れない考え方があります。それは「デジタルツイン」という概念です。デジタルツインとは、「現実空間のさまざまな事象、状態、環境をデータで捉え、デジタル空間上に、同一条件の環境を構築する」ことを指します。

デジタル空間上に実際の製造現場、あるいは店舗、倉庫などの環境を、すべてデータで捉えた「仮想空間」が存在するとします。ここではトラブルへの対応、新たな取り組み、業務プロセスの変更、緊急時の対策など、現実空間にあっては試行や予測、検証が難しいことでも、データを活用した「シミュレーション経営」が可能になります。

このようにデジタル空間でシミュレーションした結果のなかから、最適解を現実にフィードバックし、実際の業務にスピーディに生かせればDX推進の強力な武器となります。

つまり、デジタルツインは、「データ取得→分析・シミュレーション→現実空間へのフィードバック→データ取得……」という循環の仕組み、すなわち「デジタルなPDCAサイクル」を構築するための方法論なのです。

同書「デジタルツインの概要」より
次ページDXを活用する具体例2つを紹介
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