仕事も人間関係も「話す」より「聞く」でうまくいく ちょっとした心がけで「人生の損」は少なくなる

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篠田:「聞く」というのは、まさにそういうことですよ。「相手の立場になる」という表現はよく使われますが、齋藤さんがおっしゃるように、相手の感覚に少しでも近づくことが大切なのだと私も最近理解できました。

齋藤:いい映画監督は、きっとそれができているのでしょうね。映画『パラサイト』の監督も半地下に住んでいる人を自分の中に憑依させているから、その感覚が描けるし、その人たちの目線をフィルムの色やアングルで再現できる。

僕らも、例えばサントリーの角瓶のCMに登場するお客さん全員に、役柄の設定を作っているんですよ。タクシーアプリ『GO』のCMキャラクターの竹野内豊さんにも家族構成から仕事の悩みに至るまで、細かい設定がある。それを演者さんに渡すことで、「ただタクシーアプリを使う」だけじゃないCMが出来上がるんです。

ジョブレス中に「聞く」への関心が生まれた

篠田:齋藤さんはどうして「聞く」力が育まれたのだと思いますか?

齋藤太郎(さいとう たろう)/コミュニケーション・デザイナー/クリエイティブディレクター。慶應義塾大学SFC卒。電通入社後、10年の勤務を経て、2005年に「文化と価値の創造」を生業とする会社dofを設立。企業スローガンは「なんとかする会社。」。ナショナルクライアントからスタートアップ企業まで、経営戦略、事業戦略、製品・サービス開発、マーケティング戦略立案、メディアプランニング、クリエイティブの最終アウトプットに至るまで、川上から川下まで「課題解決」を主眼とした提案を得意とする。サントリー「角ハイボール」のブランディングには立ち上げから携わり現在15年目を迎える(撮影:梅谷秀司)

齋藤:広告業界は「聞く仕事」をしているんですよ。「鳥の目、虫の目、魚の目」と本に書きましたが、この「目」は「耳」に置き換えてもいいくらい、世の中の声を聞くことが重要です。

あとは、もともと人間が好きなんだと思います。子どものときから「隣の席の人は何の仕事をしている人なんだろう」「前にいるカップルは付き合ってどれぐらいかな」といったことを気にしていました。

篠田:へー!

齋藤:多分、つねにアウトサイダーな感覚があるんだと思います。アメリカで育って、帰国してからも九州に行ったり東京に行ったり、故郷がない。つねにどこかはたから物事を見る癖があるというか、輪の真ん中にいたことがあまりないんです。

篠田:「鳥の目」が子どもの頃から育っているのですね。私もアウトサイダーな感覚はあって、「この人の話には、私が想像していることとはまったく異なる背景や文脈があるのだろうな」と、若い頃から自然と思っていました。

ただ、若い頃は「私を理解させよう」としてしまっていて。「どうせ私のことはわからないんだから、私の話を聞いて」と、相手の話を聞かない方向に向かっていたなと思います。

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