なぜ道の駅は儲からなくても店を出せるのか 地方活性化とは名ばかりの「産直販売施設」

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実は、補助金などをもらうと、地元産品の比率を一定以上にするなどのルールがあり、冬場になると、商品がほとんど地元でとれないので売り場が閑散としてしまうような産直市場もあることを、皆さんはご存知でしょうか。

しかし、紫波マルシェは完全に自前でやっているため、そういう制約もありません。冬は九州などからも仕入れを行い、売り場の充実を図ることで、年間を通じて安定的な経営を実現しています。これは、施設を開発し、その運営を担い、事業責任をとるのが「オガール紫波株式会社」である、と明快でかつ一貫しているからと言えます。

地域で経済を生み、生産性を高めていくのは行政ではなく、民間です。逆に、民間が「なんでもかんでも行政に金を出してもらおう」という姿勢でいる限り、その地域が活性化することはありません。また、行政も「税金で手助けすれば、地域で楽に事業ができる」という過信を持つと、支援なしに事業に取り組む人が地域からどんどん少なくなり、生産性が下がって、ますます衰退を招くことを認識しなくてはなりません。

「民間主導の行政」は、実現できるか

本来、商業施設などをつくる場合は、トイレなどの公共機能部分は行政が整備するにしても、その脇という優位な立地を活かして、事業を考え、利益から逆算して施設規模を計算し、資金の調達をして経営するのが基本です。

もちろん、私も地方において自分たちで投融資をして事業に取り組んでおり、すべてのケースで事業がうまく行くわけではなく、環境面で難しい場所があることも重々承知しています。しかしながら、「難易度が高いから不可能」なのではなく、また、「都会と同じやり方」ではなく、別の工夫をして、事業を成り立たせるよう、努力しています。

簡単にいえば、都市部なら「坪当たり100万円」を投資して施設の整備ができるような事業でも、地方だと坪30~40万円、つまり民家とほとんど同様の建築費で整備をしなくてはならない、などというケースはザラにあるのです。

場合によっては、それでも無理で、最初はテントなどを張ったマーケット形式で事業を始めていくこともあります。私のような者から言わせれば、道の駅のように都会同様の立派な施設を地方に作るのであれば、税金が必要になってしまうのは当然です。

地方創生を貫くテーマであり、これからも何度も繰り返すと思いますが、地方の活性化は「おカネがないからできない」のではなく、「知恵がないからできない」のです。

かつては私自身も関わったプロジェクトでは、まず初期の段階で行政支援を仰ぎ、そのうえで事業にとりかかったこともありました。しかしながら、すりあわせをしていくと、どうしても民間の事業ルールと行政の計画との間にはズレがあり、結果として成果も小さくなってしまうことが過去何度もありました。

だからこそ、最初は本当に大変なのですが、民間でできることを考え抜いて実行することこそ、しっかりと地に足の着いた経営ができると思って取り組んでいます。

何でもかんでも行政が支援をしていると「支援もないのに頑張れない」という依存心がますます強くなり、普通の市場では戦えなくなってしまいます。正常な民間の力がどんどん失われていってしまうのです。

道の駅に似たような産直業態でも、民間でしっかり利益をあげている商業施設もあります。しかし、一度「行政支援」を前提として道の駅を出店してしまえば、そのような芽は摘んでしまうことにもなりかねません。

地方では、民間で事業を起こしてくれるめぼしい人がいないから、「まずは先行投資などで行政が頑張る」という話は一見理解を得られやすい話です。しかし、行政が頑張れば頑張るほど、民間は行政に依存してしまうという矛盾があります。これが地方創生事業における難しさでもあり、一番の大きな問題でもあります。

見た目では分からない、一見民間の事業活動なのに、実際は行政支援が行われ、それが見えないカタチで地域の生産性を低下させているという矛盾、その一例が道の駅だと思います。今一度、公共としての役割、民間としての役割についてしっかり線を引き、一定の緊張感をもった連携ができるか、が問われています。

【参考URL】道の駅の全国リスト(国土交通省)

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