「がんでもおしゃれを諦めない」デザイナーの矜持 姉が語る30代の妹を突き動かした強い「思い」

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がんの転移が判明してから怒涛のごとくさまざまな活動に挑んだ中島さんだが、それを支えていたのはいしいさんの存在だろう。いしいさん自身、28歳で難病と診断され、コロナ禍では感染を防ぐために、中島さんはじめ家族からは完全に離れて暮らしていた。いしいさんは「私にだから言えたことがあったのでは」と振り返る。

家族旅行に出かけた時のショット

「仕事仲間や友達の病気の話にはなんて答えればいいかわからないことが多いけれど、私と妹はなんでも気兼ねなく言い合えました。例えば『もう自分は先がない』みたいなことを妹が言った時に、私が『いや、私もそんなこと言ったらわからない』と返す。

すると向こうが、『どうせあど(いしいさんのあだ名)は、車椅子で立ち上がれなくなったとしても、まだ生きられるでしょ』とか(笑)そんな失礼なこと他の誰にも言えないですが、そう言うだけでガス抜きができたのかなって」。

まだ妹との対話は続いている

昨年4月、中島さんが亡くなる前、いしいさんは久しぶりに実家に帰り、妹に直接対面をし、話もした。用意していた誕生日プレゼントを渡すこともできた。が、葬儀に出席した後は自身の体調を考慮して法要に出ていないため、中島さんがこの世を去った実感があまりないという。

がんをデザインする
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「実感がわいちゃうと、多分仕事に支障をきたしちゃうなって思いがあって。だから自分の言葉にしにくいし、ずっと家にいるので妹のことを話す相手もいない。話すとしても仕事だったり。

1年たった今も、妹との対話は続いています。妹の仕事をやっていてたまに『こんなにいっぱい仕事残していって!なんだよもう』って。今までにも『これ、明日ウェブに公開されちゃうから、今日中にチェックして』と、いきなり夜中に連絡が来ることがあって、今もそれに近いものを感じています。

それに対して『絶対お礼してよ』って言いながらやっていて、そうすると『こっちもお礼してもらいたいこといっぱいあるから』とか言われて。今も『本当にお礼してよね!』って言ったら、『いやいや先にこっちにお礼してよ』って声が聞こえてきそうだな、と思いながら妹がやるはずだったろう仕事をつないで行っています」

倉沢 美左 東洋経済 記者

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くらさわ みさ / Misa Kurasawa

米ニューヨーク大学ジャーナリズム学部/経済学部卒。東洋経済新報社ニューヨーク支局を経て、日本経済新聞社米州総局(ニューヨーク)の記者としてハイテク企業を中心に取材。米国に11年滞在後、2006年に東洋経済新報社入社。放送、電力業界などを担当する傍ら、米国のハイテク企業や経営者の取材も趣味的に続けている。2015年4月から東洋経済オンライン編集部に所属、2018年10月から副編集長。 中南米(とりわけブラジル)が好きで、「南米特集」を夢見ているが自分が現役中は難しい気がしている。歌も好き。

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