ファクトチェックによる疲労で真相究明の動機づけを減退させることを狙った「認知の消耗戦」ともいえる。アゾフ大隊をめぐるネオナチ論争が典型だが、論点をずらせばずらすほど「主権国家が主権国家を一方的に侵略した」という重大な事実を遠ざける方向に作用する。前述のようにブチャの虐殺でもこれが繰り返された。
イラク戦争などアメリカの過去の汚点を持ち出して「どっちもどっち論」を展開したり、「アメリカがウクライナを利用してロシアを侵略している」という代理戦争図式で語りたい人々、もっと言えばアメリカをロシア以上の悪玉として批判の対象にしたい人々にとって、膨大なディスインフォメーションは自らの世界観や思想信条を満たしてくれる甘言と化す可能性が高い。例えば、アメリカがウクライナと化学兵器を開発しているというデマは、アメリカこそが本物の悪者だと信じている認知を整合化してくれるからだ。
陰謀家は信じがたいほど有能
陰謀論研究家のロブ・ブラザートンは、政治史家のリチャード・ホーフスタッターが記述した陰謀論支持者のスタイル「敵は、歴史のメカニズムを決定し、実際につくり、あるいは歴史の通常の流れを歪めようとする」「決定的な出来事は歴史の流れの一部ではなく、誰かの意思の結果だと受けとめられる」を引用し、「陰謀家は信じがたいほど有能だ」と指摘する。
もっとも極端な場合、陰謀家は事実上全能者であると述べる。(『賢い人ほど騙される 心と脳に仕掛けられた「落とし穴」のすべて』中村千波訳、ダイヤモンド社)
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