不合理だからすべてがうまくいく 行動経済学で「人を動かす」 ダン・アリエリー著/櫻井祐子訳~非合理性のプラス面を体験まじえて積極評価
英文タイトルは「非合理性のプラス面──職場と家庭で(正しいと信じられている=評者挿入)論理に挑む(ことで得られる=同)予期せざる利点」と翻訳できるが、本書の主旨は、このタイトルに要約されている。
学生時代に体表の7割に大火傷をおった著者が、痛みを乗り越えた経緯を説明しながら、一般常識や一部の経済学者が「合理的」と考える論理とは異なった人間心理が、いかに私たちの行動を律しているかをさまざまな例で説明する。
たとえば、巨額のボーナスをもらう投資銀行幹部や経営者に対し、ラットの学習効果実験を挙げ、「ショックが強くなるとラットの成績は逆に下がってしまった」とし、自らもインドで行った(人間を使った)報酬と効果の実験から「高い認知スキルが求められる課題ほど、高いインセンティブが裏目に出るのではないか」と反論する。
またネコを除く多くの動物が「短い直行ルートでエサを得るより、長い迂回ルートを好む」として、動物も仕事のやりがいを感じていることを示唆する。意味のない仕事がいかに人を腐らせるかや、小さな励ましが信じられないほどの効果を生むことなども、ほかの実験から検証している。
人間が経済合理性に反して、いかに他人を信頼するものであるかや、それゆえに信頼を裏切るような行為には驚くほどの復讐心を抱く(特に男性)などの発見も、いくつかのゲーム実験から解き明かされる。それにしても、ある感情に突き動かされて一度起こした行動が、その後の平静な状態の行動にまで影響を及ぼすという指摘は恐ろしい。
ただ、人間は「順応」するものだと確信する著者が、夫婦げんかや職場での衝突の例を引きながら、非合理でいいではないか、と語るのにはホッとする。
Dan Ariely
米デューク大学教授。イスラエルのテルアビブ大学で心理学を学んだ後、米ノースカロライナ大学で認知心理学の修士号と博士号、デューク大学で経営学の博士号を取得。その後、米マサチューセッツ工科大学のスローン経営大学院とメディアラボの教授を経る。
早川書房 1995円 415ページ
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