英国名門研究所の教え「17時には家に帰れ!」

思考のない“作業”は、研究ではない!

研究室に伝わる初代所長マクスウェルの本とトムソンの本。今では手に入らない

次に、研究所に話を移そう。私の所属していたキャヴェンディッシュ研究所は、ウィリアム・キャヴェンディッシュ(キャヴェンディッシュ家はいまだに続く貴族)が自身の先祖であり天才化学者・物理学者であったヘンリー・キャヴェンディッシュ(1731~1810年)を記念して1871年に作った歴史ある物理学の研究・教育機関である。

初代所長は電磁気学の父であるマクスウェルだ。これまで、この研究所だけで29名のノーベル賞受賞者を出していて、これは物理学の研究所としては最多である。

この研究所の歴史の中で、研究者、教育者として多くの尊敬を集めている人物に3代目所長のJ.J.トムソンがいる。彼自身、電子の発見者として有名でありノーベル賞も受賞しているが、彼の息子のほか7名の教え子が同賞を受賞している。彼の研究に対する姿勢はいまだに研究所に受け継がれている。

J.J. トムソンの教え、「17時には家に帰れ!」

日本の研究室は、どちらかというと夕方以降から濃い時間が始まるが、キャヴェンディッシュでは、18時以降(冬は17時半以降)残って作業をするには手続きが必要だ。セキュリティ上の理由もあるが、トムソンの「研究者は17時には家に帰れ!! 頭を使わない時間がかかるだけの“作業”は研究ではない!」という教えが生かされているのだ。夜まで残って研究を行っていた学生は蹴り出されたという。私は朝遅く開始し、夜に集中して研究を行うクセがついてしまっている(トムソン先生、ごめんなさい)が、この言葉にはとても共感する。

物理学の研究を、特に実験をメインで行う場合、自然現象を的確に把握するためには、つねに論理を組み立てながら、実験中も適切なフィードバックをかけなければならない。実験が一度でうまく行くことなんて滅多にない。

インプットとアウトプットをつなぐブラックボックスの構成要素を一つひとつ精査し、それらがどのような関数でつながっているのか把握し、ブラックボックスの中にある自然現象を抽出する。これを怠ると、ひとつの実験に数年かかってしまうことがある。もしも研究が、ただ手を動かすだけの作業となってしまっているなら、危険だ。前に進んでいないうえ、何となく努力している気にもなってしまうからだ。

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